第八十六話 スポーツ

スポーツという言葉は激しい体の動きをイメージさせるかもしれません。でも、チェスや将棋などもスポーツと言われる事があります。脳みそをフルに使って、体に汗はかかないかもしれませんが、脳に汗をかいているのでしょう。釣りにしても、じっとしていてもその成果を魚の数に求めず、リリースして釣る事自体を楽しむ行為をスポーツフィッシングと言ったりします。釣れたかどうかよりも、いかに釣ったかが重要なのです。

野球などのスポーツは勝敗を決めるスポーツですが、勝敗にこだわり過ぎると、スポーツとしての本来の行為から来る気持ち良さは失われる事もあります。ヨットレースも同じです。勝負にこだわり過ぎると勝つ事が全てになってしまいます。レースは勝つ事が目的ではありますが、過ぎると楽しさが失われるように思います。プロの世界は勝たねばなりませんが、アマチュアは楽しんで良いと思います。

ヨットで勝負ではないスポーツをする。相手が居ないスポーツですから、自分次第という事になります。イメージするのが難しいかもしれませんが、どんなセーリングをしようかと考えて、その時の風の具合によって対応します。レースじゃ無いからと言い訳をしないで、脳みそに汗をかいてみる。
自分の体力に合わせたセーリングをしてみる。ここから、あそこまで移動したという結果では無く、
いかにセーリングしたかを考えてみる。

舵に伝わる感触はどうか、ウエザーが強すぎるか否か、ヒール角度、スピード、セール形状、移動という結果以外に感触としてのセーリングプロセスをいかに感じようと思うか。最初は機械的であるかもしれませんが、続けていきますと、そのうち感覚上で遊べるようになると思います。行為を成して、その結果がセーリングの感触として感じる。激しい体の動きが無くても、充分にスポーツできると思います。そのうち、ほんのわずかな変化さえも感じ取れるようになっていきます。

全てのクルージング派の方々に、ただ漫然とここからあそこへの移動としてのヨットでは無く、感じるヨットとしてスポーツをお奨めしています。スポーツした方が面白いからです。いつも変化があります。それを感じ取ろうと気持ちがシフトした時、スポーツマインドになった時、セーリングはとても面白いものになっていくと思います。ただ、真っ直ぐ走っている時でも、常により良いセーリングと思っていますと、感じる何かが違ってきます。常に学び、できる事をする。脳と体のスポーツです。
自分のペースで良いですから、是非、スポーツを意識していただきたいと思います。

最近の新艇を見ますと、ドジャーはもちろん、ビミニトップがあり、メインファーラーであったりします。それが悪いわけではありませんが、そういうヨットはロングの船旅用に思えます。でも、殆ど動いていなかったり、たまにデイセーリングする程度です。旅はロングの方が楽しいでしょう。ショートなら移動では無くて、セーリングプロセスを楽しむ方がエキサイティングになると思います。沿岸のロングならエンジンを使います。それは旅ですから、それで良いと思います。でも、それだけでは、日常を楽しめないし、まして10年、20年ヨットをやり続けるには物足らない。ですから、日常はデイセーリングでスポーツして、旅は旅として楽しむ。そういう使い分けを考えてはいかがでしょうか。

そういう使い方を考えますと、どんなヨットが良いのかが解ってきます。旅とスポーツの割合、その旅が本格外洋か、沿岸か、クルーが何人居て、どんな取り回しをするか、クルーは日常にいつも来るのか、それによってどんな艤装をしたら良いのか、旅とスポーツは性質が異なりますので、そこの割合、妥協線を見出す必要があります。でも、気持ちはだいたい決まっているもので、旅を主体にするか、セーリング主体にするか、でも、全ての方に、スポーツを1シーズか2シーズぐらいは試していただきたいです。それが面白く無かったとしたら仕方ありませんが、きっとその面白さに病み付きになると思いますね。何故なら、セーリングを夢みてヨット始めた方々ばかりでしょうから、ぴたっと決まるセーリングを体験すると、もっとと思います。その決まるセーリングに至るには、日頃からセーリングをスポーツしていないといけません。

レースを散々やってこられた方が、もう良い、と典型的クルージング艇でこれからは、のんびり旅を楽しもうと考える方がおられます。でも、意外にそうは続かないものです。それなら、勝負にこだわらない、気持ちが軽くすむヨットでのスポーツをお奨めします。スポーツと言いますが、ただ、セーリングして、集中して、いかにより良いセーリングをするかを求めるというだけです。昔、ヨットの操船を覚え初めの頃、きっと面白かったのではないかと思います。勝ち負けはありません。

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