第八十九話 スポーツカー

スポーツカーは実用性というより遊びの世界の方が強いだろうと思います。荷物がどのくらい積めるか、何人乗れるか、そんな事より、スピードやブレーキ性能、トータルバランス、つまり、走る事の面白さを追求していった結果の車だろうと思います。

ヨットは実用性は無い。とは言うものの、そこはやはり遊びの世界ではあっても、その中で実用性を考えてしまいます。それが先に来て、いろんな使い方を考え出し、それにいかに役に立つか、つまりはいかに遊びであっても、その中でも実用性を考えて建造されます。

そこに新しいジャンルとしてデイセーラーが登場してきました。それは車の世界で言うなら、スポーツカーが誕生してきたようなものではないかと思います。キャビン等の実用性よりも、もっと遊びに徹した、走りを追求したもの、走りと言ってもレーサー的な走りでは無く、あくまでクルージングの延長にある遊びの世界において、いかに安全に、楽に、それでいて最大限の走りを追求していく。そして今後はもっともっとその世界が広がるのではないかと思います。

アマチュアの人が追求し得る帆走の世界で、安全や使いやすさを追求しながら、その中でより良い走りが、いかにできるかの追求の幕開けではないかと思います。アレリオン28が登場し、当初は異端であったが、そういうジャンルが認められ、さらに走りを追求していく結果、アレリオン33や38のような結果に発展していく。それはスポーツカーが登場して、どんどん進化しながら発展していく。それと同じ道を想像する事ができます。

ヨットもついに、そういう世界に入ってきた。こういうヨットはいわばポルシェであり、フェラーリであると思います。フェラーリで日本一周できますが、しようとは思わない。そんな車では無い。コンセプトが違う。デイセーラーだって同じ事。求める内容が違う。人間の意識の変化、成熟したマーケットにおいては当然の流れであるように感じます。

居住性が良いヨットや外洋向けのヨットは既にたくさんある。そんな中で、全く異なる欲求をする人が出てきた。もう、寝泊りなんか問題じゃない、温水、冷蔵庫、エアコン、そんな事が重要じゃない。そんなもんはいくらでもある。もっと帆走が面白いヨットはないか、それも自分ひとりで楽に操船できて、質の高いセーリングができるヨットはないか、そういう欲求が満たされ始めたのではないかと思います。

これから先も、従来のキャビンヨットも存続するし、外洋艇も存続する。同時に、もっとスポーツカー的ヨットもどんどん進化しながら増えていくと思います。そう願っています。デイセーラーはスポーツカーと共通した認識で捉えるととっても解り易いと思います。スポーツカーは実用性は低いが、別の魅力があります。スポーツカーと実用性の高いセダンと比べる事自体はナンセンス。走りを楽しむ車、でもレーシングカーとは違います。ヨットも同じ、実用性は低い。でも、とっても魅力的なのです。

もともとヨットなんて遊び100%なのですから、それでも実用性を考えるのが人間です。それを過ぎ成熟していくと、実用性よりももっと違う魅力を求めるものです。それがスポーツカーであった。そしてヨットの世界ではデイセーラーであると思います。ですから、こういうデイセーラーに何人乗れる、キャビンの広さ、設備はどうかと考える事はナンセンスなのです。

こう考えますと、初心者の方がいきなりデイセーラーを求める事は難しいかとは思います。最初は居住性を誰でも考えます。それを経た後に、こういうデイセーラーになっていくのかもしれません。しかし、デイセーラーはキャビンヨットより操船は楽ですし、容易です。そういう意味では初心者にも扱い易いと思います。同時に、ベテランの方にとっても、走り優先なのですから、いろんな操作をして帆走を楽しむ事ができる。つまり、帆走を楽しみたい方には、初心者もベテランにとっても、非常に面白いのではないかと思います。

ひとつ問題は、車ならセダンと別にスポーツカーを所有するという事はできますが、ヨットの場合、なかなか2艇所有する事は難しい。そこで、1艇ならキャビンヨットかスポーツヨットかという選択を迫られます。元々実用性の薄いヨットでは、走りを遊んだ方が究極的には面白いと思いますが、いかがでしょうか。

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