第二話 海の道

本船には航路が設定されていますが、ヨットには道がありません。という事はどこをどう走っても良い事になります。車ですと道路があり、そこを走る事になります。真っ直ぐな道、曲がりくねった道、
ドライブが好きな方はその道路を走る事になります。ヨットは自由ですから、車のように、このカーブを駆け抜けるというドライブ感は自分で設定することになります。

ヨットはコースが道路に比べれば自由に走る事ができますから、舵を持つ意味は車のステアリング程は無いかもしれません。その代わり、アクセルが車とは全く違う。車はアクセルを踏むか緩めるかですが、ヨットは複雑です。風に対するセール角度だけであれば、車のアクセルと同じぐらいかもしれませんが、そこにセール形状を変化させる事で、様々なアクセルにする事ができます。

ヨットの面白さは、舵とこのセール形状の操作にあると言えると思います。中でもセール操作はアクセルですから、このアクセルをどう操作するかが面白さなのではないかと思います。ちなみに車のブレーキにあたる物は無いので、これもセールでやる。するとセールはブレーキの役目もしているのかもしれません。

さて、セールはカーブさせて、そのカーブの頂点をどこに持っていくか、どのくらいの深みのカーブにするか、そして、セールをひねって形状を整え、さらに風に対する全体の角度を決める事になります。それをする為にバングを操作し、バックステーを操作し、ハリヤードやシート類を操作する。全てはこのセール形状の為です。という事は舵は方向を決め、その他の操作は全てセール形状を整える為にある事になります。つまりは、ヨットはセール形状の操作という部分が最も多い事になりますので、それは、そういう操作をして遊ぶ乗り物であるという事になります。

ところが、形状はさておいて、角度だけでもヨットを走らせる事ができる。そうなると、ジブシートとメインシートだけ操作していれば、それで走る事になります。形状なんかは気にしない。確かにこれでも走る。初心者の頃はこれでも充分に快を得る事ができると思いますが、慣れてきますと、そうはいきません。そこで、慣れた方はヨット本来の遊びであるセール形状の操作をいかにするかを実行して、本当のヨット遊びを楽しんで頂きたいと思います。理屈は割と簡単に理解できると思いますが、実践はなかなか手強い。ですから大の大人が夢中になれるゲームかと思います。どの風にどういう形状にしたら良いか?これを実践で求めて、自分で答えを見つけるゲーム。その見返りは快走です。

ヨットというのは、本来、そうやって遊ぶ物ではないか、と思うわけです。ヨットを快走させるのは、車を走らせるより難しい。その分、道は無いので、自由が与えられています。これが車のように走れる道が決まっていたら、快走どころか、帆走さえも難しくなります。道が無い自由があるかわりに、走らせるのは車より難しい。そこを楽しむようにできてるのではないでしょうか?ヨットを遊ぶ、楽しむ、快を得るには、このセール操作をいかに遊ぶ事ができるかにかかっているような気がします。
道が無いうえに、セール操作をしないなら、これはかなり簡単な乗り物になります。それでは人間の複雑な頭脳を満足させられません。簡単操作でOKなら、強烈なスピードが出るか、何かが無いといけません。ヨットはスピードは遅い。道も無い。その代わりセール操作がある。考えて見れば、これが最も面白さを作り出す手段ではないでしょうか。そこにこそ、人間が快を感じる源があるような気がします。

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