第六十九話 家族、仲間、ヨットとオーナー

クルージング派におけるヨットとその周囲の関係を考えるに、その楽しみ方をもう一度検討する余地があるのではないか、そう考えております。多分、10年前なら、私も家族とセーリングとか、仲間を呼んでとか、そういう事を考えたと思います。それらは想像するに、容易く、また楽しそうでもあります。恐らく、多くの方々も同じではないでしょうか?

それらは確かに楽しいでしょう。ただ、違った事は何か、と考えますと、その利用回数なのです。最初の年は珍しいので、家族も友人も良く来た。しかし、2年目、3年目となるにつれ、回数は減り、そのうち年に1回とか2回とか、わずかになっていく。それが殆どと言って良いと思います。そういう使い方でオーナーが満足であるなら、何も問題はありません。でも、物足りないと感じておられる方がおられるなら、検討する余地があると思います。

家族や仲間、彼らが思うヨットとオーナーが思うヨットとは全く別次元なのです。ヨットに乗る楽しさは確かにどちらも描く事ができますが、レベルが違うのです。オーナーと同じレベルで、家族や仲間がヨットを考えているわけでは無いと思います。もし、オーナーが2〜3ヶ月に1回ぐらい、ぶらっとクルージングするとか、年に1回ぐらいちょっと遠出するとか、そのあたりで考えておられるなら、問題は無いと思います。しかし、もし、もっとセーリングを味わいたいと考えておられるなら、オーナーと周辺の方々とは次元が違う事になります。

仲間や家族の中から、ひとりでもオーナーに近いレベルでヨットを楽しみたいという方が出てくれば、それは幸いですが、それはゲストを招待したのでは無く、クルーを得た事になります。ゲストはあくまでゲスト、仲間も家族もゲストとして乗るのか、或いはクルーで乗るのかは全く違う話です。

つまり、ゲストを招待する事は、レギュラーにはならない。クルーはレギュラーです。という事は、オーナーがヨットを楽しむには、日常的にですが、レギュラーとしてのクルーが必要になるか、或いはシングルハンドしか無いという事です。家族も仲間もゲストとして乗せてあげるうちは、それはイベントであり、イベントはしょっちゅうやるもんじゃないわけです。

これで、オーナーの遊び方が整理できると思います。それでも、イベント的でも家族や仲間とクルージングするのが最も面白いと判断されれば、それはそれで結構です。解ってやる事が大切です。使用頻度が少なくても、それは苦にはならないでしょう。

でも、もっと楽しみたい、セーリングを楽しみたいと考えるなら、それは通常の使い方として、イベント的であってはならないし、クルーを得て、或いはシングルを目指すべきかと思います。そしてその為に選んだヨットが、ファミリー用で無かったとしても、何ら問題は無いわけです。どうにでもできます。大事な事はオーナーが意図した方法で楽しむ事ができる事が必要かと思います。

家族も、自分達もたまには楽しみたいが、オーナーに対して、せっかく買ったんだから、それなりに充分楽しんでもらいたいはずです。そしてオーナーは自分が楽しむ事ができるのは家族のお陰ですから、充分に感謝して、家族を招待する時は充分に接待して、ヨットだけでは無く、いろんな場面で感謝を込めて手伝ったり、いろんな事ができるはずです。家族が求める事は、自分達もおなじくらいヨットに乗りたいでは無く、たまに乗れれば、それで充分なのです。

ヨットを楽しむという事は、良い時ばかりではありません。波の高い日、雨が降る、行きは良いが返りは時化る、そういう事も良くあります。家族がそれでも、また次に乗りたいと言い出したら、それは結構な事ですが、そういう家族を見た事がありません。

楽しむというのは簡単な事かもしれませんが、もっと突っ込んで、面白いヨットという次元にまで行きますと、多分多くのオーナーが期待する事だと思いますが、良いも悪いも両方を受け入れる必要があります。それで、この次元での話を進めますと、良い時は何でも良いのですが、風が強くなったり、波が高くなったりする時、やはりそれはファミリークルージングのヨットで乗るより、それなりの性能を持ったヨットの方が、遥かに頼れる。良いヨットはオーナーを助けてくれます。ですから、ファミリークルージングのヨットでも、帆走はできますが、オーナーを支えるという意味では違った走りになると思います。ですから、ヨットを選択する時、多くの方々がキャビンの大きさや設備ばかりを気にされますが、本来、最も気に留めるべきは、また別なところにあるのではないかと思う次第です。オーナーが普段の乗り方として、イベントでは無く、どんな使い方を希望されているのか、それをできるだけ満たす事が先決で、それ以外のイベントは、どうにでもなるものではないでしょうか?イベントを重視して、普段をないがしろにしてはいけません。ヨットはここ2,3年の事では無く、
10年、20年と続くものとして考えた方が良い。

欧米ではチャーターヨットが盛んです。イベントとして乗るには、このチャーターヨットが最適です。でも、日本にはそれが無い。だからと言って、オーナーのヨットをチャーターヨット的に使うというのは、ちょっと違うと思うのですが。

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