第十二話 セール

セールが重要な事は言うまでもありません。車のエンジンと同じです。車に乗りますと、最高スピードを出す事は無いのですが、それでも加速が良いとか、車体が重いだとか感じられます。メーカーもエンジンについては詳しく表示しますし、買う側もある程度はこだわる。ところが、セールについては、レーサー以外の方々はこだわら無いし、せいぜいフルバテンかどうかぐらい。それもセール形状よりもレージージャックを設置した時に、フルバテンの方が収納しやすいからという理由。

セールは殆どがダクロンだし、そのセールのクロスカットが多い。これはブームに並行したラインでカットされたセールパネルを縫い合わせた物。価格も安くなりますので、殆どはこれです。ちょっと良い奴になると、同じダクロンでもラジアルカットと言い、力のかかる方向に、三角の三つの頂点に集中するようにカットされている。その性能をどうこう言う前に、乗り手がそのセールの性能違いにこだわるかどうかの問題になる。殆どのクルージング派はこだわらないので、クロスカットの安いセールを標準とする事が多い。それでは、ラジアルカットでないといけないかと言うと、そんな事は無く、その前にセーリングをどんどんやって、その上での話になる。でないと意味は無い。

他にもレーサーが使う素材の異なるセールがありますが、これらの高性能セールは明らかに性能が違う。全く違います。ダクロンでレースに勝つ事自体無理な話。それに高価だし、寿命も短い。それで一般ではダクロンで充分だし、せいぜいラジアルカットかなと思います。それより、古くなったセールのまま、それを使う方が問題かもしれません。今まで、セーリングに無頓着だったとしても、これからセーリング重視されると、そのうちセールをどうにかしたくなります。いろんな知識を得て、いろんな操作が解ってきても、伸びきったセールで、どうにもコントロールできないという事もある。ですから、セールは新しい方が良いに決まっています。上りで目一杯セールを引き込んでも、どうやっても伸びたセールは深いドラフトになったりする。それで大きくヒールしてしまう。これが新しいセールなら快走できるかもしれないのに、残念、というケースは多い。移動目的ならそれでも使えるが、セーリング目的、特にフィーリングを大事にするのなら、これはどうかと思います。大きなヨットには大きなセール、それだけ費用はかかる。でも、ヨットのセールは大事なエンジン、でも消耗品でもありますから、ここは他の装備を追加するより大事なところかと思います。結局、最終的な目的である快走から来るグッドフィーリング、これがどれだけ得られるかどうかが最重要課題かと思うからです。消耗品と割り切って、フィーリングを大事にしましょう。セーリングをやるにあたっては、グッドフィーリングを得るかどうかはとっても大切な事です。それを得る事によって面白さが決まる。
考えても見てください。セーリングに少しづつ詳しくなって、思ったセールの形状にならない時、これにはストレスを感じてきます。何故なら、それで快走が得られるであろうからです。逆に、思った通りの形状にできる時、それが実際の風の具合とか、他のバランスとかと調和する時、グッドフィーリングが得られる。調整の仕方が充分で無いにしても、これから先十分にチャンスはある。逆に考えると、それを試行錯誤して楽しむ。それを遊んでいるわけですから。

伸びきったセールはへたったエンジンと同じ。シリンダーから圧が漏れてきて、いくらアクセル踏んでもも加速が悪かったり、坂道になるとスピードが落ちてきたりします。良い状態を知っているから、そういう時には違いがすぐに解る。でも、セーリングの場合、良い状態を知らないと解らない。こんなもんかと思う。それは腕が悪いんじゃなくて、セールが悪い。セールが悪いから快走ができない。快走ができないから、グッドフィーリングが得られない。それで、セーリングを遊べない。せいぜい、こんなもんかと思ってしまう。それではセーリングで遊ぼうという気にはならないかも。

まあ、それはともかく、今あるセールで、兎に角、セーリングをしてみる。いろいろやってみる。形状を気にして見る。これが先決ですね。物よりも、先に自分の気持ちがセーリングにシフトしていく必要があります。快を得たい、セーリングを遊びたい、そう思わない事には先には進めませんから。

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