第二話 機能と美

物には機能があり、使い易いとか性能が良いとか、いろいろあります。一方で美しさという人間の感性を刺激する曖昧なものがある。機能は重要な事です。それを求める動機になります。しかし、ある程度の機能、性能を備えると、それだけでは十分では無く、美しさを求めるようになります。誰でも、美しいのは好きですからね。

仕事をするなら、機能、性能が優先されるのですが、遊びにおいてはそうとも言えません。遊びは感性を刺激するものですから、機能さえ高ければ見た目が悪くても良いとはならない。場合によっては多少の機能には目をつぶってでも美しさを求める事もあります。人は機能に感心しますが、美しさには感動さえする事がある。本当は美しさ優先なのかもしれませんが、機能的に使えないでは困る。

人が美しいと感じるのは何か?多分、それは全体のバランス、プロポーションの良さではないかと思います。それが美しいと誰もが思う時、バランスが取れている。しかも、不思議な事に、その物が持っている目的において美しい。ですから、いろんな美しさがあります。ですから、美しいレーシングヨット、美しいクルージング艇、美しい外洋艇、等々、それぞれにあると思います。逆に言うと、人間はその機能において、美しさを感じ、自然と解るのかもしれません。つまり、誰もが美しいと感じた時、そのヨットはその目的において機能的にも優れている事を感じ取るのかもしれません。だいたいにおいて、美しいヨットはその機能において性能も高いのではないでしょうか。

その点、いろんな機能を盛り込んだ物は美しさを感じないかもしれない。でも、その割りに安いとか、機能もりだくさんとかで売れる。物が手に無い時はそういうケースが多い。でも、物がある時は、そういう事の上に美しさを求めるようになる。その美しさは、盛りだくさんの付加価値は無いかもしれませんが、本来の特質においては優れている事が多いと思います。

全長の長さを限っておいて、そこにたくさんの付加価値をつける。腕の良い職人がその技で作り、天井を高くし、幅を広げる。冷蔵庫を付ける、温水を付ける、部屋を広くする、棚をたくさんつけて、広いギャレーと、大きなテーブルを設置する。それらは、高い付加価値を持って生まれ、それを見た人達を魅了します。想像をかきたてる。確かに、キャビンは便利です。快適空間です。それを美しいとたくさんの人達が感じたとすれば、多分それは目的に応じて美しいわけですから、キャビンが美しいのです。その美しさは、物だけでは無く、空間をも含めて美しいのだと思います。

ヨットを外から眺めて、全体が美しいと感じるのなら、それはヨットとしての機能においても優れていると思います。でも、キャビンは別です。そして、外見もキャビンも両方美しいと感じるなら、それは
多分、もっと大きなサイズになるはずです。もちろん、機能を犠牲にしてでも、美しさを取るという意味では無く、美しさはその目的において機能も優れていると思うだけです。その機能においてです。キャビンが美しいヨットなら、そのヨットはキャビンが機能的にも優れているでしょう。全体の姿が美しいのであれば、それはヨットとして美しいと思います。つまりセーリング機能が優れている。人間の感じる感性は、美しさを感じながら、同時に機能、性能さえも感じ取る事ができる。但し、キャビンとセーリング性能を混同しない事は必要かと思います。

多分、どんなに素晴らしい材料で、最高の職人が作り上げた、美しいキャビンであっても、狭いと感じた時にはトータルでの美しさを感じないだろうと思います。それはキャビン空間をも含めた美しいデザインでは無いからです。それを人間は自然に、本能的に感じ取っていると思います。

つまり、優れた機能は美しさと同じであろうという事です。ただ、何が美しいかを、他と混同しない事です。キャビンを求める方は美しいキャビンに惹かれるでしょうし、セーリングを求める方は美しい船体を求める。理屈では無く、人間はそういう事が自然に備わっていると思います。要注意は混同しない事です。求める方向性さえ解っているなら、後はその目的において自分が美しいと感じるヨットが当たりかと思います。問題は自分の方向性の方でしょうね。

そのヨットのどこが美しいと感じたか?それが、このヨットの特性だと思います。レーサーを求める方は外洋ヨットを見て、美しいと感じるとしても、何かもうひとつ違和感を感じてしまうと思います。逆もそうです。ですから、自分の感性を信じる事かと思います。特に遊びには感性が必要です。自分が求める美しさが無いヨットは、合わないヨットです。それが仕事に使うならそんな事は言ってられませんが、遊びですから、この美しさは必要な事かと思います。冷蔵庫があるから楽しいわけじゃない。温水が出るから楽しいわけじゃない。何がどうあると楽しいか、面白いか?それは美しさにあると思います。いろんな美しさがあります。たくさんある美しさの中で、どの美しさを求めるか?それがコンセプト、今求める使い方ではないかと思います。機能を理性でみて入るのでは無く、感性から美しさを見て入る方が正解なのではないかと思う次第です。自分に合っているかと思います。美しさはその目的において優れている。逆に言いますと、全てにおいて、無難にこなすヨットというのは、美しさを感じないかもしれません。無難な範囲ではあるかもしれませんが。

人は失敗を恐れて、無難を選ぶ事があります。それもひとつの選択の仕方です。人によっては、自分の感性に導かれるように選択をする人も居ます。機能満載を重視する人も居ます。いろんな選択の仕方があります。みんな考え方が違うのですから、当たり前です。ただ、選択の目的は何かを意識しておいた方が良いように思います。仕事をする時と遊ぶ時、これは当然選択の仕方は違ってくると思います。

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