第七十話 パワーボート

パワーボートは個人的には好きではありません。何故かと言いますと、まずはエンジン音がうるさい。この騒音はすごいもんで、隣の人と話をするのに大声を上げなければならない。特に、最近ではスピードを求める方々が多く、昔なら、何とか30ノットをトップスピードで達成したかったのが、今では巡航で30ノット、トップならもっとです。その為により高馬力のエンジンが求められる。よって、騒音はもっと大きくなる。この大音量のエンジンが好きになれない。

また、波が無い時ならいざしらず、逆にそういう状態の時の方が少ないのですが、とにかく波に船底が当たるショック、これが体に響いてくる。それも何時間も続きますと、もういい加減嫌になる。
釣りでもする方は、いち早くポイントに到達する為にはスピードは必要な事で、好きな釣りの為には我慢もできる。しかし、釣りをしない人にとっては、苦痛ではないかと思ってしまいます。少なくとも私にはそうです。だいたい、ボートで快適にクルージングするには、船底形状にもよりますが、いわゆるディープV船底形状で、波の状況にもよりますが20ノット前後ぐらい迄ではないかと思います。

一方、ヨットはと考えますと、セーリングを主体にデイセーリングを推進しておりますが、一方では、やはりあっちこっちに行く、クルージングを楽しまれる方々が多いのも事実です。そして、多くの方々はセールを使わずにエンジンで行く。ヨットのエンジンですから、音はたいした事はありませんし、波に対する船底のたたき方もボートの比ではありません。でも、セールはたいていの場合使われていない。という事は、ボートで行っても良いと考える余地はあるのではないか?しかし、あの騒音は我慢ならない。

ボートの中にトローラーというボートがあります。本来、トローラーは10ノットぐらいで走る。トップではもう少しプラスぐらい。ヨットよりも少し速いぐらいで、ゆったりと、まさしくクルージングの旅ができる。しかし、ここにもスピードの波が押し寄せ、大きなエンジンを設置したり、2基がけにしたりと変化してきました。しかし、これには問題があった。トローラーは大きなキールを持ち、これがスピードが上がりますと、カーブを切る時に、船体が内側に傾かず、遠心力で外側に持っていかれる。これは恐怖を誘います。また、ヨットの造船所も変化を見せ、ヨットから引退する方々向けに、ヨットマンズボートなるモデルを出してきました。スピードにおいて、トローラーよりも少し速いボートです。これで、オーナーの、これまでのクルージング志向を支えようとしたわけです。ところが、年数が経つにつれ、これらのヨットマンズボートもより大きなエンジン設定を行い、スピードを追求していきます。今や30ノットが当たり前の時代なのです。

それで、ヨットマンズボートとして、トローラーよりむ少し速いぐらい、巡航で15,6ノット、トップでいざという時は20ノットぐらい出る。船艇もVカーブが大きく、デッドライズが大きくて、エントリーが柔らかいもの、その程度のボートが、考えてみればクルージングには良いかもしれません。ヨットより速くて、計算ができる。音も比較的静かで、波あたりも柔らかい。すると、目的地での遊びには良い。へたにパイロットハウスなんかにするより良いかも。それに、あっちこっち行けば潮の流れがあり、ヨットなんかですと、潮待ちしたり、時間を考慮して出たりもします。関門海峡なんか、8ノットぐらい流れる事がある。場合によっては、それに合わせる為にどうしても暗い夜に出るか、目的地が夜に到着するようになるか、という場合もあります。ならば、いっその事、クルージングを楽しみたいのであれば、ボートの方が良いかもしれません。

エアコンの効いた、キャビンで運転ができる。雨も関係ない。おまけに多分、クルージングはひとりじゃない場合が多いので、仲間と同じキャビンで楽しめる。一人自分だけ外に居る事が無いように。という事は、フライブリッジタイプでは無いか、上下両方にステアリングがあるか。

兎も角、クルージング優先、キャビン優先と考えた場合は、ヨットよりもボートに割り切った方が使い勝手は良いかもしれません。よって、セーリングはデイセーラー、クルージングにはトローラーより少し速いヨットマンズボート、なんてのはどうでしょう。

ところが、前記しましたように、かつてのヨットマンズボートは大きなエンジンを2基設置して、スピードを目指すようになった。それでは、他と変わらない。そんな事を考えていた折、ある造船所からコンタクトがありました。そのコメントには、我々のボートはヨットマンズボートであると記載されていました。当社はヨット専門で来ていますから、どうかとは思いましたが、せっかくのオファーでしたので、考えてみる事にします。丁度、クルージングには、そういうボートも有りか、なんて事も考えていましたし。

それで、内容を見ますと、トップスピード24ノットとあります。それに特にエンジン音を抑えるような配慮もかなりしている様子。まあ、トップスピードというのは、だいたい燃料積んで、水も満タン、私物を加えて、人間も何人か乗せると重くなりますから、スピードは落ちる。多分、トップ20ノットか、少しオーバーぐらいにまで落ちるのではないかと思います。という事は巡航で、15ノットから17か18ノットというところでしょうか、それなら良いかも?エンジンは珍しく1基がけ、その代わり、バウスラスターが標準についてる。これは考えようによっては、ちょっと面白いかも?
  

まあ、いろいろ条件もあるでしょうから、まだ解りませんが、ひょっとしたら、そういうクルージング志向の方々向けに、ヨットマンズボートを考えても良いかなと思います。

次へ             目次へ