第三十八話 中古艇

FRPという素材はどのくらい持つのか、まだはっきりは解っていない。半永久的とも言われる。何しろ、FRPでヨットが造られ始めたのが1950年代、それから60年ぐらいしか経っていない。その当時のヨットがまだ現役として残っている。もちろん、その後に、FRPの強さが解ってきて、物によっては厚みが非常にうすくなっているのもある。そういうのは、どうも心もとないが、まあ、しっかり造られたヨットであれば、多分100年は乗れるだろう。

もちろん、付属品であるポンプや電気類はそこまで持つ事は無いかもしれませんが、それらを修理、交換する事によって、ヨットは長い寿命を保つ事ができる。そういう前提で考えると、日本中にある中古艇はまだまだ寿命の半分にも達して居ない事になる。100年持つとしたら、人間の寿命と変わらない。ならば、日本の中古は古くても30歳ぐらい。まだまだ若い。日本という長い歴史を持つ国の我々にとって、30年なんかは本当はたいした長さでも無い。

但し、戦後復興を目指し、大量生産、大量消費の思想が定着し、消費によって経済が発展してきた事を考えると、30年なんてのは長すぎると感じるのかもしれません。それにデザインの変化で、古いのは必要以上に古さを感じさせる。それが資本主義の戦略でもある。ヨットに限って言えば、古いデザインが必ずしも新しいのに劣るとは限らない。何故なら、スピードだけを競っているわけでは無いからです。そこには、理屈では無い味わいというのがある。

新艇を買う時には、大金をはたく。しかし、その後の維持については使いたくないというのが人情です。家は3軒建てなくては解らないと言われますが、ヨットも同じで3艇所有してみないと解らないのかもしれません。つまり、一生のうちに3艇所有するつもりぐらいで、もし、幸いにも1艇目が気に入ったならば、後2艇分の費用を最初の1艇を維持する分に使う必要があるのかもしれません。まあ、そこまでは行かないにしても、維持、メインテナンスは充分考慮する必要がある。

メインテナンスに充分お金をかけて、20年経ってもきれいなヨットがあります。オーナーはそれを売ろうとする時、その状態の良さを強調して高く売りたいと考えるのは当然、しかし、買う側がそれを認めるかといいますと、日本はまだまだそういう気運には無い。ここらは、今後は変わっていく必要がある。寿命の100年にちかいのならまだしも、30歳ぐらいなら、まだまだです。そうなると、オーナー側としても、維持の仕方によって高く売れるのであれば、やりがいもあるし、その間、良い状態のヨットに自分も乗れる。買う方も、良い状態のヨットを手に入れられる。お互いに良い事になります。

そのヨットが常に良い状態で保たれる。それは最初のオーナーでも、次のオーナーでも、誰でも良い。兎に角、手に入れたら、そのヨットに責任を持つ。良い状態である事が当たり前という認識ができてくれば、殆どのヨットは寿命をまっとうする事ができるようになる。自分の為にメインテナンスを、ヨットの為に、そして次のオーナーの為に、何も高価な何かを施すのでも無く、新しい計器類が必要でも無く、基本ベースをきちんと維持していく事は大事な事でしょう。そうすると、中古艇の売買に関して、売る側も買う側も安心ですね。そうなると、新艇だって買い易くなる。だいたい、新艇買って、1年未満だとしても中古だからと言ってドンと安くなる事じたいおかしな話であります。徐々にでも、そういう風になっていけばと思います。

その為には、みんながもっとヨットに関わり、もっとヨットについて知らなければならない。その為には、ヨットにもっと乗らなければならない。つまり、どんどんヨットに乗って、楽しむ事が先決であります。自分のヨットだから、自由に、どうしても良いと考える事もできますが、先に述べたようにヨットの寿命は長い。いつかは誰かの手に渡っていく。そうすると、ある一定期間所有していた責任はある。そう思うと、自分のヨットではありますが、疎かにはできません。そういう意識が広がると、ヨット文化は相当な広がりと定着を見せることになります。すると、各オーナーの方々にとっても、これは良い事ではないかと思いますね。定着すればもっと楽しめるようになります。定着すれば、安い係留料のマリーナができたり、出かける先々の施設が良くなったりもするでしょう。まあ、これからどれぐらいかかるかは解りませんが、少なくともそういう方向に向かえば良いと思いますね。

我々業者も、売れれば何でも良いというより、そのオーナーに合うヨットを見つけ出す手伝いなんかができると良いと思います。このヨットはこういうコンセプトのヨットです。そういうきちんとした説明をする責任がある。見かけのデザインも重要です。価格も重要です。そして、そのヨットが持つコンセプト、造船所のコンセプトも重要かと思います。何を買おうが勝手ではありますが、そのヨットを知って買う事が重要かと思います。コンセプトの合わない使い方では、充分に楽しめないかもしれません。一見、同じような形をしていながら、実は違う。本当はもっと合うのがあるのに。

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