第四十六話 フィーリングを大事に
衣食住が満たされますと、人はグッドフィーリングを求めます。その衣食住にも満たされれば良いというわけでは無く、グッドフィーリングを求める。衣食住にプラス感の、衣食住感と言っても良いぐらいです。良い素材の良いデザインの服を求め、おいしい食を求め、家も同様です。 一泊数千円のビジネスホテルから、数万、数十万の豪華なホテルまである。数十万の車から、数千万の車まである。飛行機はエコノミーからファーストクラスまで、家具も、何もかもが安い物から高価な物まである。そして、その最も安い物でさえ、一応の用は成す。 衣食住さえ満たされれば、その次は何に価値を見出すか?それだけの事であります。ですが、それは感という人間の欲求を満たすかどうかになってくる。生きてさえいれば、後はどうでも良いというわけにはいきません。より良く生きる。そのより良くとは、どう感じるか、その感じる事が人間にとって重要なのだろうと思います。ですから、より美しさを求め、より高品質を求め、心地良さを求める。人のフィーリングとは、それだけ大切なものなのだろうと思います。 そのフィーリングにどこまで大枚をはたくかは、その人の価値観次第ですが、ヨットにも同じように、最も安い物から、高級艇まで幅がある。そこらへんで遊ぶには、どれでも充分に用を成す。何が最も違うのかと言いますと、やはり他と同じようにフィーリングが違う。もちろん、外洋性があるか無いかという根本的違いもありますが、感の違いも重要だと考えます。 良く練られたデザインに、堅い船体と、工法が結びついた時、その感はそのコンセプトにおいて非常に良い心地良さを与えてくれます。そして、大抵は見た目にも美しい。バランスが取れている。無理が無い。そういうヨットでのセーリングは非常に心地良い。滑らかなセーリングを感じます。 一方、無理のあるデザインでも用は成す。しかし、このフィーリングが損なわれる。たかがフィーリングではありますが、前述のように、フィーリングとは重要な要素であります。言うならば、そのフィーリングにお金を払っているわけです。ヨットに乗った事が無い人にとっては、乗るか、乗らないかがフィーリングの違いですが、経験のある方にとっては、より良いフィーリングとなる。用を成すのは当たり前の事で、どんなフィーリングを与えてくれるかが重要なポイントであります。これを一旦味わうと、何人乗れるか、何の装備があるか、そんな事よりもっと、どんなフィーリングかが重要に思えてくるのではないでしょうか?そこに価値観を持たない方にとっては無駄であります。そういう方にとっては用を成せば、それで良いわけですが。 ヨットというのは無駄な物であります。という事は無くても困らない。そういう物に敢えて乗ろうというのは、このフィーリングが最も重要ではないかと思います。心地良さだけでは無く、安心感も与えてくれる。性能、直進性、スタビリティー、多くの要素がありますが、それらは全てフィーリングに行き着く。まとめて言えば気持ち良いかどうかです。艇の差はこのフィーリングにある。どんなヨットだって外洋に行こうと思えば行ける。でも、安心して行けるかどうかは別であります。 それで思う事は、より大きなサイズを求めるというやり方もありますが、サイズを落としてでも高品質を求めるというやり方もあるという事です。大きなサイズが良いフィーリングを得られるという方もおられるでしょうし、サイズより品質に良いフィーリングを得る方もおられる。以前はサイズを求める方が多かったのですが、これからは品質を求める方も多くなるでしょう。ヨットは豊かさの象徴でもあります。それがもっと進んで、サイズが大きくなったり、品質が高まったり、日本はそういう時代に入ってきた。ヨットに乗るか乗らないかという時代では無く、いかに乗るかの時代へと進んできていると思います。それは用を成せば良いというものから、いかなるフィーリングへと見方が変わる事を意味する。日本のヨット浸透度は非常に少ないですが、それでも数十年の歴史を経て、時代は変わってきているのではないかと思います。大きいか小さいかは、自分の価値観というより、全体の風潮でもあったが、これからは自分の価値観が顔を出す。用を成せば良い時代から、よりグッドフィーリング、自分のグッドフィーリングを求める時代となる。これは成熟度の進化の現われでしょう。 例えば、チークはメインテナンスが大変であります。トウレールやハンドレールがチークで、それにニスを塗ると、後々大変だ、ならば最初から無い方が良いという考え方もあります。しかし、大変かもしれないが、このチークにニス塗りをした美しい姿、それを敢えて求める。大変さもあるが、美しさを求めるというのも成熟度のひとつかと思います。成熟度はどれだけ自分の価値観が、一般に言われる事とは無関係に、求められるようになるかではないか?成熟すれば価値観は多様化する。形、色、品質、性能、コンセプト・・・・・・・。 |