第四十八話 性分

人には性分というのがあって、これはどうしようもない、と言いますと、マイナス的なニュアンスですが、もっと積極的に性分をプラス、特徴として考える方が良いわけです。ちょっと前ですが、大きめのヨットに乗る機会がありました。大きなヨットは、大きなヨットとしてのセーリング特性がある。確かに、豪快とか、安定感とかが違う。でも、私の性分的にいいますと、自分のヨットじゃないな、という感じです。そのヨットが良いかどうか、高品質かどうか、という前に、自分の性分には今一合わない。乗って面白く無いわけじゃない。でも、自分で手に入れたいとは思わない。

それで小さいヨット、といいましてもあまり小さいのも嫌なのですが、30フィート前後、ヨットによっては以下、それぐらいが自分に合う。クルーが居るとか、シングルができるとか、そんな事は無関係に何かフィットするという感じがあります。面白さが少し違うような気がします。

この性分は人によって違うわけですから、早く自分の性分に合うヨット、サイズ、フィーリングを見出す事がヨット遊びを面白くする最も良い方法かと思います。そこが解ってくると、どんな乗り方をしたいのか、どういう風に艤装したいのか、そんな事も自然に沸いてくる。すると、自分のヨットはこれしかないとまで言い切ることもできる。他人がどんなヨットで、どんな乗り方をしようが、全く関係ないし、気にもならない。自分の楽しさは、これだと解ると、いろんな事が明確になっていく。

幸い、我々業者はいろんなヨットに乗るチャンスがある。しかし、一般の方々はそうはいきません。これが難しいところです。しかしながら、おおまかに言って、例えば、ヨットでの旅が好きか、セーリングが好きかと言えば、だいたいどっちかに重点を置く。片方しかしないわけじゃないが、重点がどっちかに傾くのではないか。

クルーが居ないから、居るから、時間があるから、無いから、そんな事の前に、自分の性分としてはどうか?そこに合う物を持って来れば、必要ならクルーをどうにかしてでも連れてくるだろうし、時間なら、何とか作ろうと思うし、性分さえ合えば、後は何とかしようと思うだろうし、実際に可能だろうと思います。性分さえ合えば、メインテナンスもするだろうし、学びもするだろうし、自分の面白さを演出する為に、いろんな事をするもんだろうと思います。

ヨットやるなら、おおまかに言って、旅かセーリングか、ではないか?もちろん、他の使い方もありますが、大きくはこの二つではないか?旅が近場だろうが、外洋だろうが、それは問題では無い。旅とセーリングは異なるものだと思います。ですから、どっちが性分に合うのか?例え、時間がたくさんある方でも、旅が性分と合わなければ、時間があるからと言って、旅をするというのはどうか?その逆も同じです。旅が合う人は、その旅をいかにするかを考えて、ヨットを考えるし、時間も造る。例え、今は時間が無くてもです。かつて、旅派の人も旅に行かない時はセーリングをと言いましたが、これはどうも違うようです。性分の問題です。性分に合わないのは、やっぱり何かが違う。でも、やってみると違う自分に出会う事も無きにしもあらずなので、難しいですね。でも、まあ、自分の性分について考えてみる事は無駄では無いと思います。人がどうこうとか関係なく。

デイセーリングの性分と言いますと、何か?例えば、自分とヨットにとって、ちょうど良い、心地良い風がある時、誰でも、特に細かい事しなくても、爽快な気分を味わう事ができる。しかし、残念ながら、そういうちょうど良い風というのは、いつもあるものでは無いので、それより強すぎたり、弱すぎたりするわけですが、そういう時には、セールの調整をして、より良いを目指す。つまり、こうして、ああして、こうなって、そういう事が面白いと思えるかどうか?セールカーブをもう少しこうやって、と思えるか?或いは、そんな面倒な事はしたくないか?結局良い風ばかりでは無いので、その他の時にもいかに面白く過ごせるか否か?或いは、単純に風任せか?

旅の性分というのは、どうか?ひとつは時間が長い。長い時間には、いろんな事がある。それに行った先でもいろいろ。デイセーリングのような細かい作業とは違い、長い時間の中で、いろんな対応がある。そんな中では細かい作業なんか、いちいちやってられない。セーリングに対するものというより、もっと大きな目で見て、潮流とか、岸壁への接岸、その対応、アンカーの打ち方、いろいろとヨット以外の対応が必要になる。デイセーリングが繊細なら、旅は豪胆でなければならない。細かい事をいちいち気にしていては旅はできない。

デイセーリングでは1マイルを快走して、快感を得る事ができる。しかし、旅は長い。もっとトータルで、旅のプロセス、到着地での過ごし方、おおらかに、全体的な見方になる。この違いは多いに、性分にかかわってくると思います。

初心者はデイセーリングから入る。ヨットに慣れたら、性分として、旅に出るか、デイセーリングをもっと深く掘り下げるか?以前は慣れたら旅というのが常識だったかもしれませんが、今はそんな事は無い。デイセーリングを深く楽しむやり方もある。それは単に性分の違い。性分が違っても、他の事もする。80対20の法則ならば、デイセーリング80に対して、ウィークエンドクルージングを20程度、旅派の性分の方は80が旅で、デイセーリング20ぐらいか。そして、両者とも、20の時は気分を変えて、乗り方がそれぞれ異なる。その20をまた目一杯何とかしようと思うと、それは違う。80の性分に対する、20の息抜き、バリエーション、おまけ、ぐらいと考えた方が良いような。

よって、旅派の方にとってデイセーリングは重要では無いし、デイセーリング派にとって、旅はさほど重要では無い。見方が変われば、ヨットに対する考え方も異なる。そして、みんな自分の性分でもってヨットを見る。批評をする。デイセーリングは面白いがみんなでは無いし、旅は楽しいかもしれないがみんなでは無い。だからいろんなヨットが建造される。

その他、キャビンで過ごすという使い方もある。別荘代わりです。エアコンの効いた快適キャビンです。欧米でも動かないヨットはたくさんある。で、彼らはキャビンで過ごす。そのヨットはマリーナにあって、そのマリーナ全体が賑やかだ。マリーナにエンターテインメント性がある。よって、ヨットを出さなくても、マリーナには人が一杯。欧米と日本の最も大きな違いはこれかな?閑散としたマリーナでは、いくら快適キャビンでも、何か寂しいもんです。

次へ          目次へ