第七十一話 デザインの妙

不思議なもので、例えば、直線でも何ら差し支え無いけれども、そこを曲線にするだけで、柔らかさや美しさを感じたりします。美しい直線とは言いませんが、美しいカーブとは言いますね。しかし、全てが曲線だと、落ち着かないし、直線と曲線をうまくブレンドしたデザインに美しさを感じます。しかも、人間はわずかなカーブをも感じ取るもので、その繊細なカーブにさえ、美しさを感じる。

直線は加工し易いが、カーブは手間がかかります。美しさの演出には手間がかかる。カットしてカーブを造る事もあるし、木を曲げてカーブにする事もある。カーブには美しさを感じ、直線には機能性を感じる。

ヨットは機能と美しさを備えた、人間がデザインした最高の芸術のひとつかもしれません。その美しいヨットを操船して走らせるのですから、こんな贅沢は無い。その贅沢は心に潤いをもたらす。ヨットに乗るという事は、心に潤いをもたらす事、ひたすらセーリングという贅沢を味わう事、それによって、精神が洗われる。

ここでひとつまた、乗り方が考えられます。ひたすら自分が気に入った美しいヨットを美しく走らせて、その贅沢感を味わう事です。目的地がどうこうとか、スピードがどうこうなんか気にせず、美しく乗る。向こうの島に渡って飯を食う、スピードをもっと出せ、そんな事は無粋であります。でも、あたふたしていたのでは美しくありませんから、余裕を持って、楽にスムースに、性能を目一杯では無く、少し抑え気味ぐらいで、ゆったりのセーリングをする。美しいヨットには、そんなセーリングもカッコイイ。性能を目一杯引き出してやろうとする事もあるし、このように抑え気味に走るカッコ良さもあります。

居住性やスピードを気にしてヨットを選ぶ方法もありますが、この美しさで選ぶ方法もある。それも遊びだからこそできる事です。ひたすら美しいヨット、これにもあこがれます。居住性で選ぶヨットがあり、性能で選ぶヨットがあり、美しさで選ぶヨットがある。それぞれで良いと思います。

海に浮かぶ流麗なカーブを持つ白い船体。そこに直線的なマストが立ち、優雅に走る。見る者に美しさを感じさせ、乗る者に潤いを感じさせる。おまけに腕が良くて、余裕で走らせる事ができたなら、これも最高でしょうね。

多くのヨットを知らない方々はそんなイメージをヨットに持っているのかもしれません。実際はいろいろあります。しかし、時には、そんな気分に浸って、優雅にセーリングを試みるのも一興かもしれませんね。美しさは居住性や性能に決して引けを取らないと思いますね。

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