第八十八話 マスト調整
マストは真っ直ぐ立っていれば良いという事でもありませんね。真っ直ぐは必要ですが。クルージング主体で、エンジン主体、そういう事であれば、太いマストを真っ直ぐ立てて、しっかりステイのワイヤーを張って、ロワーやミディアムも途中に曲がりが無いようにすれば良いと思います。 しかし、セーリングをもっと楽しみたいという主旨を持つ場合は、マストも立てるだけではいけません。マストも大抵は少し細めで、マストを曲げたりするコントロールを考える必要があります。ヨットはそんな面倒くさい事を遊ぶわけです。何故か? それによって走りが違ってくるからです。セーリングを味わいたいと思うと、初心者は兎も角、やがてはそういう事を考えるようになる。 自分のヨットがウェザーヘルムが強いとか、その逆とか、セーリングをし続けますとと、そんな事が解ってくる。そうすると、フォアステーのファーラードラムの中のターンバックルを延ばしたり、短くしたりして、マストの後部への傾斜を調整する事になります。そんな面倒くさい事をしますが、それをする事によって、セーリングに対するフィーリングが変わります。それが面白い。いわゆるグッドフィーリングになるのです。 最近多い、スウィングスプレッダーはマストが左右に曲がらないようにするのと同時に、マストを前側にも押しますので、前後方向のマストの曲がりを形成します。いわゆるプリベントで、バックステーを引いていない状態でのマストの曲がりを作ります。それからバックステーを引くと、マストトップからマストが後部に曲がり、フォアステーの付け根も後部に引かれて、フォアステーのサギングを取り、もっと引きますと、フォアステーの付け根から下が、前側にせりだす。という事は、スプレッダーの根元から出たステイのワイヤーをがんがん引いていたのでは、前側にはもう曲がらないという事になる。そうなるとカーブが作れない。という事はセールのドラフト調整ができないという事になる。で、サイドステーのアッパーに比べたら、緩めのテンションという事になりますね。で、ロワーはまた少ししっかり張る。スウィングスプレッダーの方が、ちょっと難しい。それに、理想的には、どんどんセーリングしてからの調整という事になります。 ステイにはターンバックルがあり、これを回して調整しますが、調整後は回り止めの為に割りピンを入れる。これを入れたりはずしたりが結構面白く無い面倒くささがあります。それで、ターンバックルが回らなければ良いわけで、ステーが一ヶ所に集中してある時などは、細いラニヤードなんかでターンバックル同士の中を通して、回らないように縛っても良いかもしれません。 こういう事をするには、普段のセーリングがどうであるかを観察し、感じておかなければなりません。つまり、普段からセーリングを意識して遊んでおく必要がある。そして解れば、解るほどに、面倒くさいと感じていた事が面白い要素に変わっていく事もありえます。 完璧にはとは行かないけれども、何も完璧ではなくとも、自分が感じたセーリングを、チューニングして変化させ、その変化に気付く事というのは、なかなか面白い遊び方のひとつかもしれません。 うまくできなくても構わない。セーリングが少しづつ解って、マストをちょっとこうしたら?と考えるだけで、次の遊びが始まる。何も競争しているわけでもなく、自分の遊びとしてやるわけです。 最初はセーリングに慣れる事、それからは動きを観察する事、フィーリングを味わう事、みんな遊びです。そして、次に、もっとこうならないか、こうした方が良いかな?と思う。そしたら、今度はマストをチューニングしてみる。良く観察して、良く考える。それらがみんなグッドフィーリングに繋がっていきます。セーリングとはそういう遊び。そして、セーリングしてみて、前より良い感じになれば、これはきっと面白くなるに違いない。これは自分でやった人にだけ解るフィーリングでしょう。しかも、楽しく、面白く、感動すらするかもしれません。もちろん、誰かプロにお願いしても良い。でも、できる事なら、自分で学んで、考えてやった方が、感動は大きいと思いますね。なんせ、どこをどうしたら、どういう風に変化したかが自分で解るわけですから。その解るというのが面白いかと思います。 レーサーは当たり前のようにマストチューニングをします。その日の風にあわせてやる事もある。クルージング艇はせいぜいワイヤーが伸びて緩んできたからやる程度。セーリング派は自分の遊び具合に応じて、今のセーリングに気付いたらやれば良いと思います。もうちょっとウェザーをつけたらどんな具合か、或いはその逆とか、バックステーを引いて、マストの曲がりとセールのドラフトがどんな風に変化するか、気付いて、その変化を遊びたいとか?セーリング派に勝ち負けは無いので、大事な事は自分のフィーリングです。感じた時がやる時でしょう。 |