第十話 デイセーリング

楽器の命は音でしょう。同じような形をしているのですが、それぞれ音が違う。そのいろんな音を求めて、たくさんの楽器が製造されます。ほんのわずかな違いでも、音に反映する。好きな音というのが演奏者にはあるようです。

デイセーリングに使うヨット、命は何かと言えば、それはフィーリングだろうと思います。遠くを目指すわけじゃない、速さだけを目指すわけじゃない、セーリングして、そのヨットがどんな感じなのか、走り具合だけでは無く、操船の具合なども含めて、どんなフィーリングが得られるかが重要だろうと思います。つまり、デイセーリングのセーリングはフィーリングが命だろうと思います。

フィーリングと言っても、いろいろありますが、楽器とは違って、動く物、しかも海ですから、場合によっては命もかかってます。それで、オーナーがセーリングしていて、安心感を得られるものでないといけません。そうじゃないとフィーリングだのと言ってられませんから。まずは、安心して乗れる事が重要だと思います。ヨットがオーナーの味方になってくれなければいけません。

何が安心感を生むのか?一番は安定感でしょうね。重心の低さ、スタビリティーの高さ、そういう安定感は強風になった時に差が出ます。強いブローが入った時、風がだんだん上がってきて、すぐにヒールするようでは困りますね。ぐっとこらえる腰の強さが頼もしく感じられる。そして、船体の堅さも必要でしょう。波に叩かれてビリビリするようでは困る。例え壊れないにしても、不安感を与えるのは困る。しっかりした船体は安心です。つまり、足腰がしっかり支え、安心できるヨット、その上でのセーリングとなります。

同じ頑丈で、安定性が高いと言っても、重いヨットは重いなりの走りをします。強風にも多分強いでしょう。波が高くても、バウが鋭角であれば、波に刺さる感じで柔らかいでしょう。但し、スピード面ではやや劣るかもしれませんね。こういうヨットは、こういう特性のヨットです。そのフィーリングを味わう。逆に、頑丈で安定性が高いが、軽めのヨットもあります。こういうヨットでは、風が弱くても、それなりに良く走ってくれます。それにデザインさえ良ければ、反応も異良いし、そういう感じを味わう事ができます。前者は車で言うなら、4駆のオフロード車の感じかもしれません。後者はスポーツカーです。

海に出て、セーリングを始め、その感じに注意を向けると、そのヨットの特徴が伝わってきます。そして何度も乗りますと、それが体に染み付いてくる。それが最初のヨットであるなら、そのヨットのフィーリングが最初のフィーリング、基準となるでしょう。艤装の操作性、その反応の度合い、スピード、ヒール角、波に対する反応、いろんな事が、フィーリングに注意しているだけで全て伝わってきて、体に馴染む。知らない事でも、全てが感じられるようになる。そうすると、他のヨットに乗った時、その感じの違いはすぐに解る。ヨットはひとつのヨットに乗り続ければ、細かい事、難しい事を知らなくても、何となくその感じは解る。それで、その感じをもっと発展させる為に、知識を得、腕を磨く。それでも望むようにならないなら、買い替えという事になるんでしょうね。

感じとは実に曖昧なので、こういう感じを得たいとかは余程慣れた方かもしれません。それで、最初は、兎に角自分のヨットがどんな感じなのかを理解しようとする為に、自分の感じに注意をしておく事がお奨めです。いろんな操作をしますが、同時に、今どんな感じを持っているかを意識しておくと良いのではないかと思います。何ノットの風で、スピードが何ノット出たかは大事な事ですが、同様に、その時どんな感じを得たかを意識しておくのが良いと思います。スピードは出たものの、不安感一杯だったとか、全く不安無かった、爽快だった、嫌々、言葉にしなくても、その感じを意識するといいと思います。

そういう感じを意識する事に慣れますと、いつも、簡単に、あらゆる状況で、何を感じているかを意識するようになる。すると、自分が何を望んでいるのかが感じられるようになると思います。そうしたら、事は簡単になる。もっと自分の望む感じを推し進めていけば良い。この感じが解らないと、
自分の面白さがいまひとつ解らないという事になるのではないかと思います。誰が何と言おうと、このヨットのこの感じがたまらないなんて事もあるはずです。

デイセーリングのセーリングでは、この感じを追求してはどうかと思います。良い楽器の良い音、良いヨットの良い感じ、何が良いかは自分で決める。そうしますと、大きければ良いわけじゃないし、小さければ良いわけじゃない、軽ければ、重ければ、良いわけじゃない。それぞれのオーナーが持つ良い感じを与えてくれるヨットが良いヨットという事になります。でも、軽くて、速くて、強くて、安定性があって、反応が良くて、操船しやすいというのは、大抵の方が良い感じを持っていただけるのではないかと思います。それがデイセーラーです。その代わり、犠牲にした物もあります。それはキャビンライフ。全く無いわけじゃありませんが、セーリングを優先したら、キャビンを犠牲にする。仕方無いことです。フィーリングの為に、これが第一義ですから。

このシートを引けばこうなる、あれを引けばこうなる、ああして、こうして、こうなって、いろいろと学ぶ事はたくさんありますが、最も重要な事は、どんな感じを得たかに尽きると思います。速さだけを追求して、それが面白いならそれで良い。でも、ヨットには速さ以外にもいろんな動きがあり、いろんな感じがある。究極的には、ヨットをいろいろ動かして、このヨットはこんな感じなのか、こういう時には実に良い感じで走ってくれるとか、良いところを見つけ出せれば、楽しくなると思います。鈍足なのに、強風になったら、実に安心だし、良く走る。良いんだけど、ひとりじゃ操船できないとか、やりにくいとか、微風から強風まで良く走るし、安心でもあるとか、いろいろありますが、まずは黙って、その感じを感じてみましょう。

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