第十六話 至高の時

偶然であれ、腕が良いからであれ、良い風が吹いて、滑るように走るセーリングを体験しますと、何とも言えない良い気分になりますね。丁度良いぐらいの緊張感とその後の緩和を楽しむ事ができます。こんな全てが整う時はそう多くはありませんが、確実にあります。それを一度でも多く体感しようという事で、何度も海に出る事になります。しかしながら、そんな都合の良い時、風が良くて、自分の休みと重なって、家族や周りの用事も無くて、という全てが整う時というのは、そう多くは無いわけです。

それで、ちょっとぐらい風が弱かろうが、強かろうが、ちょっとぐらい波があろうが、ちょっとぐらい寒かろうが、暑かろうが、ちょっとぐらい雨が降ろうが、ちょっとぐらいなら何とかその中でも面白さを見つける事ができれば、楽しさの幅が広がります。風が弱い時はどんな風にセールを調整した方が良いか、風が強い時は、波がある時はどんな具合に舵をコントロールしたら良いか、寒ければ着れば良いし、暑ければ脱げば良い、或いはちょっと我慢すれば良い。そのちょっとを工夫して、楽しさを作る事で、楽しさの幅が広がる。その工夫には、やはり何らかの努力は必要になる。その努力によって腕も上がりますね。腕が上がると、ちょっとぐらいの都合の悪さも、感じ無くなって、面白さを感じられるようになると思います。すると、乗る回数が増えてくるわけですから、至高の時というチャンスが増える事になります。そのうち、またあの最高のフィーリングが得られる。

自分の乗る幅が広がってきますと、それが普通の事になります。それで、またそれよりちょっと風が弱かったり、強かったりする時も、工夫して、それでも我慢してではなく、腕を上げながら面白く乗れる工夫をする。するとまた幅が広がります。結局、面白さを味わうには、それなりの工夫が必要になるわけで、何も無しでは、至高の時も無い事になります。

人は刺激を求めて外に出ますが、同時に安定も求めており、でも、完全に安定すると退屈になり、安定が少ないとか刺激が強すぎるとかではまたもっと安定をと、いつも訳わからん事を求めます。
ヨットはその刺激と安定のバランスを取る遊びです。安定がほしかったらセールを小さくする事ができるし、刺激がほしかったらフルセールで走る事ができます。もちろん風次第ではありますが、完全無風状態ならどうしようも無いですが、また強風過ぎても困りますが、その幅さえ広げておけば、かなりいろんな場面で、バランス遊びをする事ができます。それには、やはり安定性の高いヨットが役に立つ。どっちかと言いますと、風が弱くて面白く無いというより、風が強すぎて不安という方が嫌なのです。ですから、より高い安定性を確保するという事は、より幅を広げる事ができる。
風が弱い時は、安定性が高いから退屈なのでは無く、風に対してヨットが重過ぎるから退屈になるのであって、そう考えますと、軽くて、安定性の高いヨットの方が幅を広げる事になります。

それで、そういうヨットで何度も乗りますと、もっと良い感じのセーリングをしたくなります。という事で、船体が堅いヨットが良いという事になり、これがどんどん行きますと、セールも変えた方が?とかなるかもしれません。まあ、どこまで行くかは自分次第ですが、全ては至高の時の為に。でも、ここに至っては、至高の時ばかりが全てでは無い事が解っています。求めはしても、そうで無いいろいろな時も、それなりに面白さがある事が解る。よって、面白さの幅は広いわけで、結構いろんな時に乗る事ができる。面白く無い、乗るチャンスが無い、そういう人は多分、至高の時以外は面白く無いと思っているのかもしれせん。至高の時なんてのは、滅多に無い方が良いわけで、だからこそ至高の時でもあります。

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