第六十一話 過小評価

マリーナに行きますと、ヨットがたくさん。当たり前ですが、大きなヨット小さなヨット、豪華なヨット、みずぼらしくほったらかされたヨット、いろいろありますね。それにオーナーさんもたくさんおられ、外洋をいろいろ経験した人から、レースに長けた人、はたまた初心者の方々。ヨットハーバーに行けば、そこがヨットだけの世界になり、世間とは隔離されています。中に入り込んだ我々には当たり前の世界ですが、一歩外に出ますと、一般世間から見ますと、ヨット界は特別な存在です。

もし、ヨットを自宅の横に置いておくができるのなら、ヨットは一般の住宅街で目にする事になります。すると、状況は変わる。ヨットが隔離された場所から世間に出るわけです。すると、どうでしょうか、想像でしかありませんが、どんなヨットであろうと、近場であろうと、自由に乗り回す事ができれば、それだけできっと注目の的ですね。休みの日に、ちょいと2時間ばかりのセーリングを楽しみ、たまには奥さんを乗せ、セーリングを堪能してくる。それだけですごい事であります。何しろ、周りには他のヨットなんか無いんですから。これぐらい、世間から見たら、ヨットを趣味として、自由にセーリングできるという特殊技能を持った人、すごい人、格好良い人なんですね。

ところが、ヨットを自宅に置くわけにはいきません。マリーナに置いておくことになります。マリーナは世間から隔離され、場合によっては、マリーナがどこにあるのかさえ知らない人や、知っていても行った事が無い人が大勢おられる。マリーナは一般から見れば別世界でしょう。そういう別世界でありながら、その中に入りますと、冒頭に書いた通り、特殊なヨットが普通のヨットになり、特殊な人が普通の人になります。でも、外から見ればやはり特殊なのです。

内部に居ますと、自分達を過小評価してしまう。普通にしてしまいます。でも、本当はヨットに乗れるだけでもすごい事なのです。そうは考えられないでしょうか?ですから、初心者だって自信を持って良いし、小さいヨットだって、自信を持って良い。ただ、ほったらかしはいけませんが。

そういう観点で見ますと、穏やかになります。週末に趣味のヨットを気軽に、2時間ばかり帆走してくる。時には、友人を誘って、セーリングしてくる。ヨット以外の事だって興味があればやれます。あせる事は無い、ゆったりとマイペースで、自分なりのヨットライフを築く事ができます。たったこれだけでも、世間から見たらすごい事なんだと思う次第です。過大評価をしてもいけませんが、過小評価はもっといけません。

デイセーリングを見直して頂きたい。湾内セーリングであろうが、これはすごい事なのですから。そして、このセーリングに慣れてきたら、世間様には解らないであろうが、もっと深く突っ込んだ世界をも覗き見るようにしてください。慣れた時点で、人は飽きる方向に向かいます。慣れたら、次の新しいステップへ、常に進んでいく。そしてそれに慣れたら、また進む。そうやって、何年もやってますと、どこまで深く入る事ができるでしょうか?習熟を得、人生に潤いとなる。質の高いセーリングを、そして質の高い人生を、ヨットにはそういう力があると思います。

それを過小評価してしまいますと、自分達がやっている事がすごい事である事に気付かないと、つまらなくなります。それだけでは無く、何かすごい事だけが評価されたりします。でも、すごい事ができないと思うとつまらなくなります。でも、今やってる事が、本当は既にすごい事なのに。それはさておき、一週間に1回でも、数時間のセーリングを純粋に楽しんでみてください。良いも悪いも、すごいも普通も無く、一切の評価をせずに、ただセーリングを味わって見てください。それだけで、実に幸福感を得る事ができると思います。世間ではやれない特殊な事をやれるわけですから、それで幸福感を味合わないと嘘です。つまらないと思うなんてとんでも無い。みんな幸福感を味わねばならない。本当は誰もが羨むような事を平気でやってるわけです。

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