第十三話 基本的な事

ヨットをとやかく言う前に、どんな乗り方をしようが誰もがしなければならない基本的な事があります。しなければならないという事は本当は無いのですが、した方が良い事です。

ヨットに行ったら、まず何をするでしょう。まずは、ビルジの確認ですね。溜まり具合がどうなのかを見ます。量と、舐めてみて、海水か清水かを確認します。マストがデッキを貫通するスルーなら、マストの中を雨が入って、ビルジに溜まる。もし、前回に乗った時より多くなっていれば、どこから入るかを考えます。雨が降っていないとしたら、清水タンクの水が漏れたかもしれません。もし、海水なら、船底に穴が開いている箇所から入るわけですから、スルハル、スタンチューブ、その他海水の流れがあるホース類とか、いろいろ考えられます。

ヨットに乗って、帰る前にビルジを確認、今度来た時もビルジを確認。そういう習慣をつける事によって、ヨットの状態を知る事ができます。変化があれば、その原因を確認しておく事で、事故を未然に防ぐ事ができますし、自分のヨットを知る事ができます。極端な話、バッテリーはスイッチ切るのを忘れたとしても、バッテリーが消耗するだけで済みますが、海水は無限に近くあるわけで、それも沈の可能性という最悪の事態もあるわけですから、最も注意したいところです。

ビルジを確認したところで、今度はエンジンを駆ける。少しエンジン回転を上げて、エンジンが安定する回転数、1,000〜1200回転前後とかで回すと良いと思います。そして海水の出口を確認して、その海水量を確認します。これもそういう習慣をつける事によって、いつもと同じぐらいの量か、少ないかが解るようになります。少ないと原因を調べる必要があります。詰まりとかですね。

基本的な事にもうひとつ大事な事があると思います。ヨットは風で走るわけですが、それはセーリングにおいてのみでは無く、係船ロープをはずした途端に風の影響を受けます。車のようにブレーキが無いので、その場で停止ができません。これは厄介な事で、その場で停止してから次の動作を考える余裕が無い事になります。また、風が弱い時はエンジンで何とかなりますが、強い時は風に逆らうと、とんでも無い目にあう事になりますので、風に対抗するのでは無く、風を利用する、風を味方につけなければなりません。

エンジンの暖気運転中に、出航の準備、ブームカバーを取ったり、その他の準備をします。準備が出来たら、係船ロープを解く。そのロープを外したら、風の影響でヨットがどのように流れるかを考えて。それで、影響の無い風下からはずす事になります。シングルなら、このはずす順番とか、係船ロープにちょっと工夫しておくと良いと思います。出る時、帰ってきた時の段取りですね。

出る時は、風向と強さを考えて、バックしてスターンを右に向けて出るのか、左に向けて出るのか、つまり、前進で出て行くのか、ある程度の場所までバックで出るのかを決める。風の影響でバウが風下に流されやすいので、係船ロープを全部はずしたらバウはどっちに流れるのか?風が弱ければ、エンジンの力でどうにでもなりますが、風が強いとエンジンでは対抗できない場合もあり、必ずしも前進で出て行こうとしますと、とんでも無いトラブルになる事があります。それで、後進で出ていく練習をしておいたら良いと思います。後ろ向きに立って、舵を切ると解り易い。時々振り返る事も忘れずに。時に応じて、後進でも出られるようにしておきますと、狭いマリーナでの出航は随分楽に感じられるようになると思います。

ヨットはそれぞれに特徴がありますので、自分のヨットが風から受ける影響に慣れる必要があります。風さえ味方につける事ができれば、ヨットは快適になります。出航する前に、係船ロープをはずしたら、どういう方向に流れるかを考えてみます。ヨットはバウが先に風下に流れます。流される事を前提にした操作が必要という事になります。

ヨットはある程度走り出せば、舵が非常に良く効きますが、船体の移動が非常に短い状態では、舵は効きにくい。特に、後進の時は、プロペラの水流が舵では無く、バウ側にいきますから、舵に
水流があたるまで、つまり船体がある程度移動しないと舵の役目をしない事になります。逆に、前進の場合は、プロペラの水流が舵に当たりますので、短い距離でも舵は効きやすい。舵を大きく切って、エンジンを瞬間的に大きく前進側に回転を上げると、大きな水流が舵に当たって、ほとんど前進する事無く、バウを左右にコントロールできます。ただ、エンジン回転をだらだら上げると艇が前進してぶつかるかもしれませんし、回転をあまり上げないと効果が弱い。瞬間的にグワ〜ンと上げて戻す。必要があるならもう一度というぐあいに小刻みに。但し、これも風が強い時は、風に負けるかもしれませんので、あくまで風を敵に回さない事、味方につける事が必要かと思います。
ヨットはいつも風を気にする。敵にするか、味方にするかによって大きく違ってきます。

係する場所も、自分の地域がどっちから吹いてくる事が多いのか、その時どっち向きに係船した方がより楽に出れるのか、そういう事にも関係してきます。それで、ヨットの出し入れが楽に出来るようになったら、これは大きな前進です。

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