第六十二話 世界の造船所

当HPにて、世界の造船所のページを作って、少しづつ掲載を増やしておりますが、あらためて、造船所の多さに気付きます。 そのうち、日本に入ってきたのは量産艇を中心に、ほんの一部であります。クラシック、超モダン、デイセーラー、レーサー、ハイパフォーマンス、外洋艇、スーパーヨット、プロダクション、カスタム....
小さな造船所は、やはり特徴を備えて、品質を競う。なかなか面白いです。世界のいろんなヨットを知って、その中で自分に合うヨットを探す参考になればと思います。

しかしながら、あらためて見ても、市場を占めるのはもちろん量産艇です。数から見ればほんの数社が多くを占めています。規模で言いますと、年間建造艇数は数千という数。どの造船所が最も数多く建造しているかは定かではありませんが、量産艇の代表格と言えば、フランスのベネトー、ドイツのババリア、アメリカのカタリナとハンター、これに続いて、ジャヌー、フィーリング、ギブシー、etc。最近ではポーランドやトルコとか、いろんな造船所がしのぎを削っている。

プロダクション艇でも数千という単位から、少規模造船所では50艇前後とか、もっと少なくなりますと、セミカスタム系になるようです。年間10艇以下という造船所もあります。そういう所になりますと、1艇にかける手間と情熱はすごいものがあります。それが彼らの生き残る道でもあり、誇りでもある。

もともと、ヨットというのは量産しにくいものです。車と違って、FRPという素材は優れた特性を持っていますが、モールドに積層していくのは、いくら簡素化しても、車のようにはいきません。それで、量産化には、できる限りモールド(型)を使って、組み立て式にする方式が取られています。1艇の建造に速いものでは2週間程度で建造できる。これは驚異的だと思います。一方、手作りを標榜する造船所では数ヶ月を要する。

アメリカのある造船所、セミカスタムでしたが、建造に約1年近くかかりました。素晴らしい艇が出来上がった事は言うまでもありませんが、まあ、なかなかこんなに長く待つのは難しいですね。それに建造開始から1年ですから、開始するまでに順番待ちもあります。

こんな話があります。ライボビッチという有名なスポーツフィッシャーマンを作る造船所がアメリカのフロリダ州、マイアミのちょっと北にあります。そのあたりのマリーナに行きますと、セミカスタムのボートばかり、その中でもライボビッチはピカ一なのですが、あるオーナーはこれを手に入れるのに5年も待ったとか。もちろん、順番待ちを含めてです。それで、ある自動車会社の社長、最近では話題の会社ですが、当時のそこの社長がライボビッチに発注をかけたものの、5年待ちとか。それで、この造船所を丸ごと買収し、自分のボートを一番に建造させた。やる事が派手ですね、やっぱり。それで怒った他のオーナー達、彼らもライボビッチを発注するような人達ですから、そこそこの方々ばかり、こぞってキャンセルし始めたそうです。それでにっちもさっちも行かなくなって、また会社を売りに出したとか。次はマリーナ経営をしている会社が買収に応じて、落ち着いたそうですが。

大手の会社は雇われ社長が多い。株価を上げたり、利益を上げる為に短期的な見方をする事も多い。一方、小規模の場合はファミリーで経営しているケースが多く、誇りと情熱でもって建造している。でも、例外的に、アメリカのカタリナという造船所、社長が創始者で、株主であるので、我々は余計な心配をしないで良いと言っていました。また、この社長ができた人で、確か7〜8人ぐらいの体の不自由な子供を養子にして、育てていました。

まあ、造船所と一口で言っても、いろいろあるものです。ある有名な造船所は、我々はトヨタ自動車方式でやると言っていたのを思い出します。一方、年間1艇か2艇しか作らない、或いは作れないのかもしれませんが、そういう造船所もあります。台湾の誇りまみれの中で建造している造船所もありました。あんなんで大丈夫かな?室内温度管理なんかをきちんとやっている造船所も一方ではあります。

最近ですが、塗装にオールグリップが少しづつ出てくるようになりました。これなどは、ある造船所は、クリーンルームを作って、そこで塗装。オールグリップは乾燥に時間がかかるので、クリーンルームでないと、乾燥途中に小さなゴミや埃が付着しやすい。もちろん、温度管理もきちんとしている。こういうのは量産艇では無理でしょうね。効率が悪い。

いろいろあります。質を考えれば、小規模の方が良い。しかし、量産艇はコストが安い。どちらもメリット、デメリットがあります。使う側が選ぶ事になります。日本はヨットの導入期を過ぎ、これからは、もっと違う見方が出てくるのではないかと思います。導入期の次は、発展です。つまり、具体的にどういう使い方をするから、こういうヨットが良いという考え方です。キャビンが広ければ良い、速ければ良い、安ければ良い、そうでは無く、こういうヨットが良い、という風に変わってくるのではないかと思います。その方が面白いという事が解っていくからです。

最近、時々耳にする話ですが、キャビンなんて殆ど使わないという話です。当社がデイセーラーをやっているので、そういう人達が集まるという事もあるとは思いますが、昔はそんな話は聞いた事がありませんでした。でも、使い方は昔も今も変わってはいません。自分の使い方を良く観察して、より面白い使い方を検討して頂きたいと思います。せっかくヨットやるんですから、どうせやるなら面白いを体験した方が良い。昔は買い替えは、より大きなサイズになりました。しかし、大きくなって、より遠くへ行くとか、そんな変化があるのかといいますと、ちっとも変わらない。へたすると、大きくなった分、動かしづらくなったという事もあります。今は、より大きいが良いとは限らない。小さいのが良いという意味ではありません。より具体的に、自分の使い方の合うヨットが良い。

どんなに状況が変わろうと、自分サイズというのがあると思います。小さすぎず、大きすぎず。自分にとって心地良いサイズです。それに加えて、どんな乗り方をするかで、ヨットのタイプが決まる。
でかいヨットが合う人は、どうにかしてでも、でかいヨットでなければならない。そういう人が小さいヨットに乗っても面白く無い。逆に、小さいヨットを自由自在に操るのが好きな人は、でかいヨットは合わない。合わなければ、面白さが減衰してしまう。

サイズだけでは無く、コンセプトも、品質も、自分に合う合わないというのがあると思います。高級なら誰でも良いかと言いますと、ニスのピカピカよりも、無垢の木のそのままが良いという事もあります。これからは、サイズ、コンセプト、品質等、自分に合うヨットを見つける時期、発展期になるのではないかと思います。より早くそれを見つけた人は、面白いヨットライフを創る事ができる。面白いと感じれば、充実感がわいてきますし、エネルギーが湧いてくる。

世界の造船所、まだまだたくさんあります。みんな個性的です。量産艇はだいたい既に日本に紹介されていますので、日本に無いのはプロダクション艇でも、少量生産だったり、個性的だったり、
好き嫌いの出るヨットばかりかもしれません。でも、世界はそんなヨットもたくさんある。

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