第七十五話 若者

ヨット界には若い人が少ないと言われます。昔はクルーだった人が、やがてはオーナーになり、そしてそのオーナー達も年齢を重ねてきました。そして今、クルー不足と言われ、若者が少ない。50代が若手と言われる時代です。どうして、こうなってしまったのか?将来のヨット人口が危ぶまれます。

今の時代は、昔と違ってたくさんの遊びがあるとも言われます。でも、それが原因でしょうか?確かに、環境は違うし、気質も違うかもしれません。若者どころか、奥さんも子供も来ない。それが現実です。彼らにとって、ヨットはそんなに魅力の無いものでしょうか?

ヨットに全く縁の無い人にとっては、考えもしないでしょうが、親戚や親などがヨットを持っていても、それでも、なかなか若者はやってこない。何故かと考えますと、根本的な原因は、現在のオーナーさん達の多くが、夢中になる程、ヨットを楽しんでおられないのではないかと、そういう疑問を抱いてしまいます。事実、何度も言いますが、ヨットが動いてい無い。

ヨットに乗せてもらう時、ヨットの事は解りません。でも、何かあこがれ、爽やか、何か特別の事を期待します。でも、ヨットの雰囲気は最初の30分もあれば、少し慣れてきます。そこで、イルカやクジラが寄ってきたとか、イベント的な事があれば楽しいのでしょうが、そんな事は無い。オーナーとの会話、飲み食い、そういう事がメインになってきます。確かに、海側から見る陸の風景は、いつもの日常とは違う。しかし、それらを何時間も新鮮に見る事ができる人は少ない。特別なはずが、特別ではなくなってくる。そんなもの、こんなもの、という感じで帰る。確かに、楽しかったと言える。でも、それ以上では無い。また今度載せてくださいと言いつつ、次はなかなか来ないのが現状ではないでしょうか?

何故、そうなるのか?はっきり言って、面白く無いからではないかと思います。セーリングはしているものの、実はセーリングしていない。ヨットの本質はセーリングにあって、たまたま風が無い時なら仕方無い事もあるでしょうが、そこそこでも風があるなら、セーリングの醍醐味を見せてやる方が、ゲストとしては面白い。スプレー浴びて、ズボンがびしょ濡れ?それでも面白い方が良い。ヒールさせて、びゅんびゅん走れば、ゲストは恐怖を感じるかもしれません。でも、少なくとも退屈では無いし、エキサイティングかもしれません。オーナーを信頼すれば、根本的な部分では安心できる。安心できれば、スリルを楽しむ事ができる。ジェットコースターと同じです。あれだけ若者がジェットコースターを楽しめる。むしろ、ジェットコースターの方が怖い。

そして、オーナー自身が夢中になって、大の大人が子供のように遊ぶ姿に面白さを感じるのではないでしょうか?恐怖で来ない人はいずれにしろ来ない。それより、ヨットの本当の面白さを見せてやる方が、魅力を感じるのではないかと思います。

若い人達をヨットに呼ぶにはどうしたら良いのか?と業者間でも話に出る事があります。気軽に体験できるスクールとかが必要とか言います。それも確かに必要かもしれません。しかし、根本的には、現在のオーナー達が、心から楽しむ事、面白いと思う事、それが行動に態度に出る。今あるヨットオーナーの半分でも、もっと楽しんで、いろんな使い方をして、マリーナも賑やかで、そうなれば、自然と若者も集まるのではないかと思います。重要な事は、若者をどうやって引き込むかでは無く、今のオーナーがいかに楽しむか?それさえ増えてくれば、若者は集まるのではないかと思います。面白い事には敏感なのです。

決まったかのように、ドジャーやビミニトップを設置して、スプレーが飛んでくれば陰に隠れる。ドジャーがいけないわけではありませんが、そこでスプレーが飛んできて、びしょ濡れになったら、オーナーが大笑いして、面白がったら、ゲストだってそういう同じような気になるのではないか?オーナーが逃げるから、ゲストも嫌なものとして扱う。

ヨットに乗れば、雨も降れば、スプレーも浴びる。それが自然な事です。それをそのまま大笑いで受け入れる態度、面白がる。ヒールして走るヨット、緊張感のあるセーリング、それらを存分に楽しむ事が大切だろうと思います。そういう事を楽しみ、マリーナに帰ってから、ほっと一息つく緩和を楽しむ。その緊張と緩和は実に面白いのではないか?マリーナを出てから、帰ってくるまで、ずっと緩和ばかりでは、面白く無いのではないか?若者から見れば、そう見えないか、と思うのですが。

野球を見ても、ガンガン打つ打撃戦、緊張感のある投手戦、どちらも面白い。一番面白く無いのは、だらだらしている試合です。緊張感も無い、エキサイティングさも無い試合は面白く無い。野球場にはたくさんの若者が居ます。特に驚くのは、若い女性も多い。昔はおっさんと子供ぐらいだったような気もします。ヨットには、この野球が持つ、緊張感が必要だろうと思います。それが非日常として行われるところに、もっと魅力がある。ただ、海とヨットのエキゾチック感だけでは、もって1時間ぐらいか?

結論としては、若者を増やすには、今のオーナー達が、存分に楽しむ事。そこにあるのではないかと思います。それで、やっぱりデイセーリングをお奨めするわけです。 デイセーリングこそがヨット界を救う?若者が集まれば、クルー不足も解消するのではないでしょうか?

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