第七十九話 クラシック
中古艇市場を見ますと、20年物などはざら、30年物も珍しくない、40年に達しようかというヨットも出てきました。それで、現物はどうかと言いますと、もはや船齢よりも、手入れ次第という事をつくづくと感じます。古いまま、何も整備されていないヨットは、ここまでは持ちません。船体は問題無いのですが、そこについている備品が問題です。セールもよれよれ。これではいけません。それさえ、ちゃんと整備して、交換していけば、一体何年持つのでしょうか?これはすごい事です。車なんかですと、10年も経てば価値は無い事とされます。しかし、ヨットに関しては、ほったらかしでは駄目ですが、手入れさえすれば、長く、長く持ちます。 古いヨットでも、備品が交換され、良く整備されているヨットは何十年経ってもきれいに保つ事ができます。しかしながら、ひとつだけどうしようも無い事があります。それはデザインです。現在のヨットはクラシックとモダンに分ける事ができます。まあ、トラディショナルというちょっとクラシック的なのもありますが。モダンなデザインというのは、これが数年経ち、新しい後継モデルが出ますと、ちょっと古くなったデザインという印象はまぬがれません。車の世界がそうですね。数年で新しいモデルを出す事で、買い替えを促す。でも、車はどうせ長持ちしませんから、良いんです。でも、ヨットはと言いますと、何十年とまだ先が解らない程の世界です。 日本でもクラシックなデザインというのは、人気が高いのですが、こういうデザインの良さは暖かみ、雰囲気の良さ、味のあるデザインとでも言えます。そして、いつの時代であっても、古いデザインなのですが、デザインから来る古ぼけた感じというのが無いんですね。ですから、20年、30年、もっともっと経っても、手入れさえしておけば、その輝きが衰えない。それも人気のひとつかもしれません。それに、クラシックなデザインが新しいデザインに劣るわけでもありません。それは使い方による事になります。クルージングだとしても、場合によってはクラシックデザインの方が優れている事も少なくありません。 ただ、スピードという面だけを取り上げれば、確かに、新しいデザインの方が速い。それは重量、船底形状、セールエリア等々によりますが、そこで最近では、水線から上はクラシックなスタイルで、水線以下は最新のデザインという新しい試みが生まれ、非常に成功しています。クラシックな見かけは、何十年経っても色あせする事も無く、それでいて、帆走は高いポテンシャルを持つ。そういうデザインは今後も高い人気を得ると思われます。 結局、ヨットという物が10年程度で処分されていくのであれば、車と同じで、モダンなデザインに惹かれるのかもしれませんが、20年、30年、40年ともっと長く行き続ける事によって、その長いスパンに常に衰えを見せないデザインというのは、クラシックデザインにあるのかもしれません。 クラシックデザインの特徴は、幅は細身で、バウにオーバーハングがあり、スターンにもります。そして高いバラスト比を持ち、重心が低く、船底は少し深い。これらは、スピード重視にはデメリットもありますが、波に対する柔らかさ、腰の強さ、強風に対するキャパシティーの高さ、要はクルージングにはもってこいのヨットだと思います。それに頑丈です。 それらの特徴を生かしたまま、最新の走りを求めているのが、新しい、現代のクラシックデザインと言えると思います。今新しく、50年後にも変わらない輝きを保つ。なる程、人気が高いはずです。これらは、スーパーヨットの世界にも出てきています。100フィートを越すようなビッグボート、クラシックな雰囲気を持ち、それでいて、艤装は最新、船底形状も最新、現代の帆走を享受しながら、良い味を出してる。きっと100年後でも、輝きは失われないと思います。それがクラシックの良さでは無いでしょうか? もちろん、モダンデザインが悪いわけではありません。美しい流麗なカーブを持つヨットなど、美しいものです。 単に好みの違いとも言えます。それぞれに特徴があり、モダンデザインの方が速いし、キャビンは広いし、遊び方の問題でしょう。 でも、クラシックもいろいろで、本当にクラシックとなりますと、ちょっと気持ち的に重たくなります。そこで、ちょっとクラシックぐらいが最も良い感じ。クラシック/モダンとでも言いますか、ちょっと雰囲気のある、それでいてヘビーでは無い。そういうのが個人的には好みですね。 現代のデザインは、一時的には外装に木を全く使わなくなった時があり、最近ではまた少しチークをあしらった感じになってきました。やっぱり木というのは、何か人をひきつけものがあるのかもしれません。でも、木がありますと、何と言っても手入れが肝心です。これ次第で何年経ってもきれいに見えたり、数年でも汚く見えたりしますので、そこは一考を要します。チークデッキは美しいものですが、これも手入れ次第で、美しくも汚くもなります。ついでながら、最近のチークデッキは、設置に対して一切のビスを使わなくなりました。昔はビスでデッキに固定したものですが、最近の接着剤の進化で、今は殆ど使いません。それで、将来の水漏れなんかも心配無いわけです。クラシックに見えるヨットも、見えないところで進化しています。 |