第八十一話 何てたってスタビリティー

最近のヨットを見ていますと、残念ながら、スタビリティーが低い。キャビンばかり大きくて、肝心の安定性が低い。セーリングするなら、セーリングを楽しむには、スタビリティーが重要だと思います。ましてや、昨今のクルー不足ですから、ショートハンドなら尚更、スタビリティーがほしい。
水線から上は大きな図体があり、という事は重心位置は高いはずです。そのうえ、バラスト比は20%代の前半というのも少なくない。

スタビリティーが高いというのは、実に有難い事です。初期は船体の幅で支える事ができますが、その先はバラストが起き上がりこぼしのように効いてくる。それが軽いとスーっとオーバヒールになりますから、風を逃がす。リーフする。せっかく、良い風吹いて、これから快走を楽しめるという時にそれが味わえないわけです。それは残念な事です。その味わいを得られないなら、何の為のセーリングか?良い所を逃がすなんて。

最近ではエンジンが主機でセールが補機という感じになってきました。まあ、目的によってはそれでも良いのでしょうが、でも、残念。たくさんのクルーが居るなら、対応の仕方もありますが、クルー不足が一般的と言われる時代、シングルなら、絶対高いスタビリティーがほしいところです。
突然のブローに、即座に風を逃がすとかの対応が敏速にしないと、突然大きくヒールしてしまう。舵を持って操船しているところに、突然、そういう状況に見舞われかねません。誰かクルーが居て、即対応してくれれば良いのですが、そうでも無ければ、自分でやるしかない。大きなジェノアと小さなメインの場合は、風下側のジブシートを緩めたい。でも、即座にはできません。メインセールにしたって、シートはキャビントップにあれば、これも即座には対応できません。トラベラーもしかり。それがバラスト比が高いとぐっとこらえてくれますね。有難いです。

そういう意味ではセールを楽しむという観点でいえばですが、メインシート、トラベラーコントロールは、舵を持ったまま、手が届く範囲にほしいものです。

クルーが居無い今日の状況に対して、デイセーラーが取った方向は、セルフタッキングジブに大きなメインセール。そのメインのコントロールが、手の届く位置に配される。これは操作性が良い。ブローに即座に対応できますね。一方、大きなジェノアと小さなメインでは、メインを操作してもあまり影響が無い事もあり、やはり大きなジェノアの風を逃がすしかない。そういう時に、風下のシートウィンチのシートを操作する事を考えますと、ひとりではしんどい。それに大きくヒールするわけですから。 そういう事を考えますと、シングルかダブルハンドかというのは、大きな違いが出てきます。

いずれにしろ、スタビリティーは高いに越した事は無い。セーリングを楽しみたいならですが。乗り比べますと、その違いは歴然です。でも、バラスト比を高めて、排水量が重くなりすぎてもセーリングは面白さが減衰していきますので、軽く、でも強く、そして高いスタビリティーが求められます。そして、シングルハンドでも容易に操作ができるヨットが求められる。そういう事を追求していったら、デイセーラーになっていく。それで、キャビンは少し妥協して、それでもセーリングを取った。なるほど、という感じなのです。両立はしない。それでもキャビンをある程度はほしいという人に、サイズのでかいデイセーラータイプを造った。これもなる程であります。あくまでスタビリティーは維持しつつです。今日のクルー不足とかの時代を実に捉えたヨットだと思います。ただ、セーリングを楽しむのが主たる目的ですが。セーリングとクルージングの分離です。クルーが居る人は別ですが。

デイセーラーはどれも、キャビン天井は低く抑えられています。座ってならOKですが、立ってうろつくには少々難があります。それほど、重心は低い。それに高いバラスト比ですし、ヨットによってはカーボンマストを採用しています。カーボンマストはアルミに比べて非常に軽い。それらが創り出すスタビリティーは抜群なのです。そういうヨットでのセーリングは質が違います。面白いセーリングができます。しかも、楽にです。でも、少々高価なのが難点ですが。

おまけに、デイセーラーはみんな幅がせまい。幅が狭いと初期ヒールはしやすい。キールは効果は初期には出ません。でも、初期はヒールした方が良い。風が弱い時、わざと風下に座ってヒールさせようとするぐらいです。でも、その後は、キール効果が出てきて、ぐっとこらえてくれる。なる程、なる程、おおいに納得です。今までなら逃がしていた風を捉えて、快走できるのは面白いに違い無い。それがデイセーラーコンセプト。それをシングルでやれるのがデイセーラーなのです。という事で、惚れてしまいました。

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