第九十三話 目標とプロセス
何らかの行動を起こすには、動機が必要ですし、その動機は目標が設定されます。目標は夢と称される事もあり、そして、夢は大きな夢を持てとも言われます。しかしながら、これには目標に至るプロセスの事はあまり言われません。現実には目標があり、そこに至る長いプロセスがある。時間的に言いますと、プロセスの方が非常に長いわけです。 旅をするには、行き先があります。あまりにも目的地が重要視されますと、そこに至るプロセスが軽んじられる。できれば、プロセスはできるだけ省いて、即座に目的地に着きたいと思い、飛行機で飛んだりします。それはそれでひとつの旅ではありますが、ここにプロセスの重要度は無く、心は目的地にある。 ヨットで旅をするなんていうのは、その点、のんびりしたもんです。車で行く事もできれば、敢えて、ヨットで行くところに旅としての趣がある。という事は、ヨットの旅はプロセスの旅、目的地もありますが、長いプロセスを楽しみながら行く旅ですから、いかにこのプロセスを楽しめるかは重要な事でしょう。場合によっては、目的地よりも重要かもしれません。楽しいプロセスがあればこそ、目的地も生きてくる。 目的地にはいろんな方法で行く事ができます。どんな方法でも、目的地は同じ。そこで、プロセスを重視して、どんな風に楽しむか?それは多分、手段というより、どんなマナーで、どんな気持ちでプロセスを過ごすのか?プロセスの間に、目的地を重視しすぎると、旅のプロセスは面白さが減少してしまう。先に目標は目標としておきながら、今はそのプロセスをいかに楽しめるか?今はその方が重要なのでは無いでしょうか? 目標はあくまで方向を決める。しかし、今はそこに至るプロセスをいかに楽しめるか?という事は、大事な事は、今この瞬間にしている事なのではないか? しかし、我々はついつい目標に捉われてしまいます。結果を重視してしまう。その為に、たった今した事に意識が薄れ、場合によっては、今何をしたかさえ忘れる事がある。 デイセーリングはプロセス重視の遊び。目標も無い事は無いが、プロセス重視の遊びです。ですから、今この瞬間を遊ぶわけですから、2時間や3時間の短い時間ですが、そこに充実感が生まれます。どこかに行こうとしているわけではありませんから、今この瞬間の味わいを、じっくり味わう事ができる。目標はうまくなる事。ならば、今この瞬間のプロセスを味わいながら、目標も同時に味わう事ができる。今、この瞬間を面白いものにすれば良い。場合によっては、結果はたいして重要では無くなるかもしれません。でも、結果もちゃんと付いてくる。但し、目には見えません。目に見える目標は解り易いのですが、目に見えない目標は自分だけにしか解らない。自慢もできません。しかし、自分の中に着実に積みあがる。この場合、プロセスそのものが、目標でもある。プロセスと目標が同じだなんて、こんな良い事はありません。 今、この瞬間を面白いと感じる事が重要です。それがデイセーリングの乗り方、マナーだろうと思います。こんな事は他には無い。旅もレースも目標が重視されます。しかし、デイセーリングは目標よりもプロセスです。ですから、終わりが無い。やりようによっては、ずっと面白い。達成感が無いと言われるかもしれません。確かに、レースの優勝や旅の目的地到着という達成感はありません。しかし、確実に、心につみあがるものがある。うまくなってきた、それに応じてレベルの違う味わいが出てきた、そういうものではありますが、でも、この目標の薄さが、達成感を薄くはしていますが、その分プロセスとしての面白さを増幅しています。長い時間のプロセスを大事にしています。自分の外側よりも内側を大事にしています。 漂うようなセーリングであっても、その味わいを得る事ができる。強風であったら、スリルを味わう。程よい時は微妙な操作を味わう。どんな場合にも、何らかの味わいがあり、その瞬間瞬間を充分に味わう。もし、過度の目標があれば、この瞬間のせっかくの味わいというものも得られなくなります。たった今した事さえ忘れるのと同じです。昨夜の食事が何だったか忘れるのと同じです。何故するのか?ゲームとして面白いからです。結果何かを手に入れようとする意識が少ないから、ゲームとして面白さを味わう事ができるのではないかと思います。 昔から、目標を持つ事を良しとされ、それがあまりにも行き過ぎた為に、目標を良しとし、そのプロセスを軽んじてきました。ですから、常に、何らかの目標を持たないと安心できなくなります。でも、それが本当に良い事なのか?長い、長いプロセスを台無しにしてしまわないか?そんな気もしないではありません。目標が単なる方向決めであるなら、そのプロセスをゲームのように楽しめるのではないか?そんな気もします。デイセーリングはそんなセーリングが、いとも簡単にできる。瞬間、瞬間の味わいのセーリングになるのではないかと思います。結果では無く、プロセス重視のセーリングではないかと思います。 |