第一話 オプション

日本では標準での装備が多い方が良しとされます。何でこれがオプション?とか言う言葉を聞く事もあります。でも、ヨットの世界では、高価な程、オプション設定が多いようです。例えば、アレリオン、ハーバーヨット、セーバー等々、オプション設定が多い。セールはオプション、バングとか、バックステーアジャスターとか、いろんなオプションがあり、アレリオンやハーバーなんかですとコンパスもオプションだったりします。

これらのヨットを購入される方々は、大抵は過去にいろんな経験を積んだ方々が多い。よって彼らは、彼らなりの考え方があります。従って、必要とする、必要としない、必要でも、どんなタイプが良いとか、いろんなこだわりがあります。特にセールなんかですと、どこのメーカーのどのタイプが良いとかありますし、コンパスにしても、デジタルコンパスなんかもあります。

プロダクション艇にして、様々なオプション設定をするのは、実は造る側からすれば面倒な事です。ひとつひとつ違う仕様になります。しかし、ベテランの方々に個々に対応する姿勢から来ています。これが殆ど皆同じ仕様になるならば、とっても好都合なのです。

これがもっと進みますと、セミカスタム艇になります。これはオプションがもっと大掛かりになっていきますね。ですから、個々のオーナーの好みに合わせて、艤装、その艤装のメーカーのどのタイプまで指定できますし、事細かな仕様を指定する事ができます。でも、ハルとデッキを全く違うものにはできません。これがセミカスタムです。これでもご不満ならば、完全カスタムになるわけです。ハルのデザイン、デッキのデザインから起こす事になりますので、究極と言えるでしょう。こうなりますと、オーダーする側も詳しいですし、こだわりもある。また、そのこだわりに対応できる造船所側の技術もある。

しかし、オーナーの希望を何でも受け入れるかと言いますと、そうはいきません。場合によっては、自社ブランドのレベルを落とす事になるとか、或いはなんらかの無理がある場合、性能を落とす事になりかねない場合等は、NOという返事がきます。もちろん、何故の説明は詳しくなされますが。
ところが、一部では何でもOKと言う造船所もありました。その時点ではオーナーも希望を受け入れられるのですから気分は良いのですが、後で、ひどい目に合う事になります。

昔、トローラーですが、当時スピードを言われる事が多く、トローラーでも、トップ20ノットはほしいという要望がありました。今考えますと無理があったのですが、当時は解りません。それで、オーナーの要望をかなえる為に、エンジンのパワーアップを依頼、造船所もOKでした。その時は物理的に載るかどうかだけの判断だったようです。

それで、日本に来て、実際走らせますと、おかしな点が出てきました。スピードは確かに上がった。しかし、トローラーとしてキールを持っていたため、高速でカーブを切る時、通常でしたら内側に傾いてカーブするのですが、キールのせいか、内側に傾かず、遠心力で外側に傾くという現象が起きたわけです。これは非常に恐怖感を感じました。そのままひっくり返るのではないかと思った次第です。これは失敗でした。直線では高速OK、でもカーブを切る時はスピードダウンしてからでないと、危なくて仕方無い。バブル期の事でした。それ以来、こういう馬鹿な事はしませんでしたが、それにしても、造船所もそんな事は考えなかったのか、売れれば良いと思ったのか?私も知らなかったという罪はありますね。

ヨットでは、こういう経験はありませんが、造船所の良識はそこのレベルにも匹敵するかと思います。オーナーが手に入れた後にする事に制限を加える事はできませんが、少なくともオリジナルの時点では、品質、ブランド、性能、そういうものを大事にしている造船所でなければなりませんね。
逆に、何でオーナーである俺の言う事を聞けないんだと怒られた事があります。なだめるのが大変でしたが、実際に乗り出してからは、今度は逆に感謝の手紙を頂きました。やはり、信頼できる造船所と付き合わねばなりません。

造船所のもうひとつの大きな違いは、コミュニケーションです。問い合わせしても返事が来ない。何週間も来ないとか、そういう造船所もあります。逆にすぐに返事が来る造船所もありますし、出張等で出かける時は、事前に居無いからとメールが来る造船所もあります。こういう造船所はグッドですね。担当者のレベルにもよるのでしょうが、そういう担当者を雇っている造船所でもあります。
品質や性能は造船所それぞれが目指すコンセプトがありますが、コミュニケーションはそういうことには関係ありません。

実は、オプションについては、当社としてはそのまま標準仕様で乗れる状態を基本としています。日本ではその方が合うからです。もちろん、どこまでを標準とするかは迷う時もあります。それによって価格が高く見えてしまうからです。しかし、そのヨットのコンセプトから、こういう乗り方、仕様が良いし、これが特徴でもあるという事で判断しています。例えば、アレリオンにはジブブームがあった方が良いし、これが特徴のひつとであると考えています。一方、ライフラインは、無くても良い。
実はアレリオン28は通常の大きなジェノアを選択する事も可能なのですが、でもやぱり、ジブブームがあった方が、このヨットのコンセプトには良いと考えますし、実際アメリカでも、殆どはジブブームを持っています。

オプション設定を見ますと、その造船所の姿勢が少し解ってきます。どんな設定があるのか?いつも、新しい造船所と話をする時には、そういうところをじっくり観察して、どういう考え方を造船所が持っているのかを考えます。そして、そのままで行く場合もありますし、日本仕様として、いくつかのオプションを標準とした方が良いと思う事も少なくありません。

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