第七十六話 キャビンVS.セーリング

キャビン拡大競争が始まって、クルージング艇はより大きなキャビンを良しとし、今も続いています。海外の方々にはそれが合っているんでしょう。キャビンが良く使われており、重視されているのだろうと思います。しかし、日本はと言いますと、キャビンは最初だけで、後は、あまり有効に使われているとは見えません。何故か?これまでも書いてきた通り、泊まるわけじゃない、天気が良いなら、コクピットに居る方が気持ちが良い、クルージング中もしかり。

セーリングをしますと、昔のヨットより、大きな船体、重心も高くなっています。大きなキャビンにする事によって、セーリングのニュアンスも変わってきました。クルーもより必要になってきた。それがセーリングもあまりしない理由かもしれません。エンジンを使ったクルージングが主体になってくる。そういう目に見えないゆっくりした流れにあるのかもしれません。気がついてみたら、そうなってたという感じです。

装備を見ますと、便利機械が満載になってきた。オートパイロットは当然の事、GPSがついて、測深器があり、場合によっては電動ウィンチ、メインファーラー、ビッグサイズのヨット装備が、そのまま30フィートあたりにもついてくる事があります。おまけに、コクピットドジャー、ビミニトップ、コクピットには大きなテーブルです。クルージングが悪いわけじゃない。しかし、ヨットをあまりにもクルージング一辺倒にしてしまうと、セーリングがやりにくくなる。利便性を求めすぎた結果ではないかと思います。

そういうヨットが、便利だから、気楽になれて、しょっちゅう楽しんでるというのであれば、OKなのですが、逆に、クルージングとしての機能満載であるが故に、セーリングがやりにくい。問題はそこに気がつかない事です。便利さばかりに気を取られて、セーリングしなくなった事に気がつかない。そう言えば、いつの間にか、セーリングしていないな〜?

重心が高いと、ちょっと風が強くなるだけで、大きくヒールしてしまう。クルージング中にそんな状態は歓迎されない。ならばセールはそんな時には出しませんという事になります。セーリングから遠くなって行きます。

そんな状況に欧米にも一部は気がついた。そこで出たのが、デイセーラーという事になると思います。同じクルージングというジャンルに居ながらも、このデイセーラーは反対側の極に位置すると言えると思います。キャビンよりも、やっぱりセーリングが良い。楽に動かせるも、高い帆走性能が自分の手で味わえる。

このふたつはどっちが上でも下でも無いとは思いますが、やはり日本人のこれまでの行動を見ますと、面白いのはデイセーラー、見栄をはるならクルージング艇かな?でも、よくよく見ますと、デイセーラーはシンプルななかに、高級感が溢れています。どちらかと言うと、玄人好みかもしれませんね。

両方持つのが理想的かもしれませんが、そうも行きませんので、どっちを選ぶか?無論私はデイセーラーですが、キャビンとセーリングを天秤にかけて、考えてみてください。いつも、客人がたくさん来るなら、セーリングなんかやっておれませんね、ならばクルージング艇が良いとなるでしょうし、シングルも含めて、客人が来ても1人とか2人とかならば、デイセーラーを選んで、セーリングを堪能する方をお勧めしますね。

つい最近の皆既日食を見る為にヨットで、鹿児島南方のトカラにクルージングに行かれた方もおらあれます。こういう時は確かに、でかいクルージング艇が活きます。でも、日食なら飛行機でも行けるし、帰りも簡単。それに、日食ショーが終わってからの日々にも、セーリングが気軽に楽しめる。もちろん、ヨットで行くところに良さがあると言われる。もちろんそうですが、でも、終わってからは、どうでしょうか?

これが私の合理性なのであります。私の合理性に、みんなが納得するとは思えませんが、そういう考え方もある。違う考え方もある。両方が共存して、それぞれに楽しめるヨットライフになれば、それが一番良い。どっちも正解では無いし、どっちも間違ってはいない。

自分の合理性がどこにあるのか?

私の合理性は、デイセーラーなら、シングルでもゲスト有でもセーリングが面白い。おまけに近場ならクルージングもできるし、気軽にヨットを出す気持ちにもなれるし、慣れれば夜間航行だって、慣れた海域ならできるだろうし、大勢のゲストの場合、クルージング艇でもセーリングはできにくいなら、そういう時はクルージングとしても良いし、兎に角、遠くへ旅をしようとする以外は、デイセーラーの方が良い。これが私の合理性です。

何日も何日もかけて、旅をするのなら、大きなキャビンや便利な装備、大きめのエンジンなんかに合理性を見る。それは当然であります。でも、日常のセーリングに、気楽には出せなくなる。それがどうも、面白くない。クルーが居て、全部やってくれるなら、そういうのでも良いかも?でも、そんな事は有り得ない。昔はあったんですね、これが。オーナーが来る前に、クルーが先に行って、準備をしてくれるわけです。オーナー到着時には、コーヒーが出てくるぐらいです。今や、そんな事は有り得ない。オーナー自らが、準備をして、コーヒーでもいれて、やっとクルーがやってくる?そんな馬鹿な?

大勢で乗りますと、レースでも無い限り、セーリングなんてできない。気持ちがみんなそういうモードには入っていない。ご馳走とおしゃべりの集いであります。それが悪いわけでは無いし、そういう時があっても良い。しかし、あっても良いと言えるのは、普段には、セーリングを楽しんでいるからであります。

結局、キャビンかセーリングか、どっちを取るか、割り切る必要があります。割り切れないと不満が残ります。もうひとつの方法がありますね。昔のヨットをレストアする方法です。昔のヨットには、もっとセーリングするようにできていましたし、キャビンもそこそこあります。もちろん、重心も低かった。
そういうヨットを整備しなおして、乗るのも悪く無い。お金の事を考えますと、20年物にそんな大金つぎ込んでという考え方も出るかもしれません。でも、自分が楽しめます。今後はそういうレストアという考え方も増えて来るように思います。そうなりますと、再販価格だって、そう悪くはならない。

人生80年、残された人生を、自分の為に、自分の面白さの為に、活かしてはどうでしょうか?自分が活きると、回りの人達にも少なからず影響を与えます。それが本当の幸福なのではないかと思います。自分の為に、人の為に。両方が活きなければならない。

ある方、昔、山を切り崩して、家をたくさん建てた場所。そういう場所ですから、同年代の人達がたくさん住んでいます。すると、引退もだいたい同じぐらい。その中のひとりの方がヨットを始められた。周りは、この年になってとか、何で、とか聞いてくるそうです。皆さん、そうできる事が羨ましいわけです。それを脇目で見ながら、また別な仕事を探しては仕事に行かれる。でも、少なくとも、そういう選択の仕方があるんだという事を示したわけです。選ぶは自由。ひょっとしたら、その周りの方でも、影響を受けて、ヨットでは無いにしろ、違う選択をした方もおられるかもしれません。何が良いかは解らない。でも、選択の幅を広げた事は良い事かと思います。この方、自分が操縦するヨットで、海に出れるなんて思ってもみなかったと感激されていました。きっと、友人にもその感覚を分けてあげられるでしょう。

セーリングはかなりプライベートな感覚かと思います。自分の心の内部における変化を楽しむ遊びかもしれません。でも、時折、友人にもその感覚を分けてあげる事ができます。ひょっとしたら、時折、ダブルハンドを楽しめるかもしれません。クルージングの客は、やっぱりいつまでも客なのではないかと思う次第です。これもセーリングをお勧めする理由のひとつでもあります。

今のクルージングは、かなり外部からのエンターテインメント性に頼っているのではないかと思います。セーリングは自らがエンターテインしなければなりません。それが我々現代人は、日常をエンターテインされていますから、どこ行っても、サービスされますから、お金さえ払えば。ですから、自らがエンターテインする事に慣れていないのかもしれません。でも、やると、次元の異なる面白さが沸いてくるかと思います。何しろ、全責任を持って出るわけですから。外部のエンターテインメントに頼っているわけではありませんから、それができる人は次元の異なる面白さに出会うのは当然であります。自らが主体になるなら、自らの中に積もる何かがあります。

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