第三十五話 誰もがセーリング
| ヨットを単純に便利な道具として見るならば、セーリングについて、そんなに知らなくても構わないのかもしれません。しかし、ただの便利な道具として見るなら、ヨット以外の車や電車、飛行機等の方が良いわけです。という事は、ヨットはただの便利な道具として見ているわけでは無く、何かしらの楽しさ、面白さをそこに見る事になります。 将来、日本一周してみたい、外洋の旅をしてみたい、そういう夢を持つにしても、やはり、ヨットの持つ最大の特性であるセーリングについて、そこそこは知り、体験し、味わっておく事は重要な事ではないかと思う次第です。旅には旅の要素があり、学ぶべき事はたくさんありますが、まずは、セーリングについて知り、経験を積む事は、ヨット体験のベースとして持っておいた方が良いのではないかと思います。 セーリングは動かす程度であれば、そんなに難しい事では無い。その程度で、ある程度回数を重ねていけば、自然と慣れる。よって、その程度でも、沿岸の旅ぐらい実現する事はできる。まして、ヨットがエンジンを使っていくなら、尚更の事であります。セーリングで、行きたい所にも行ける。しかし、もう一歩突っ込んで、セーリング体験を深める事で、セーリング体験の様相が変わる。 始めたての頃、誰もが、セーリングというものを学びます。セールを上げて、舵を切り、タッくしてジャイブして、リーフを覚え、風の逃がし方を覚える。そこまできますと、もう、どこへでも行ける。移動という次元でいうなら、どこへでも行ける。そこでナビゲーションを覚える。と言ってもGPSがあります。漁港への入港を覚える。後は、エンジンさえしっかりして、燃料さえあれば、行けます。 でも、その前に、もう少しセーリングの体験を深めておくとどうでしょうか？移動という次元から、走らせるという次元へ。セーリングは移動ではありますが、走らせるという次元はもっと深い意味があります。そしてそこには、単なる便利な道具というよりも、そこの理屈とフィーリングが、より深く心にしみこむ事になります。クルージングをされる方にとっても、一旦はこのセーリングの少し深いところまで体験して、味わって、知識を得ておく事は、ヨットをやるには必要とは言わないが、良い体験として刻まれるのではないでしょうか？すると、旅では無い時に、セーリングそのものを遊ぶ事ができる。旅も良いが、それ以外、まさしくヨットならではの体験が何か違うニュアンスを持つようになるのではないかと思います。 風が強くなったら、風を逃がす事は誰もが知っています。でも、何故そうして、何故、そういう方法でやるのか？知らなくても良いかもしれませんが、知ったうえで、この方法でそれをする。その理由もちゃんと自分の中にある。それが何か良いような気がします。 タックをするのは簡単ですが、どういうタイミングでどうしたら良いのか、タックはタックに過ぎないのですが、それもこういう具合にした方がスムースで良いとか、何もレースでは無いのだから、そんな事まで考え無くてもというのは、そうかもしれません。でも、知っておく、できる、そういう自分を持つ事は何か、面白さが少し増えたような、そんな気もしないでは無い。 そんな、もうちょっとだけ突っ込んだセーリングを得た後、旅に向かうも良し、セーリングをもっと突っ込んでみるのも良し。そんな気がしますので、できれば全ての方に、セーリングについて、自分でもっと考えて、実践して頂ければと思います。そこに何があるのかは解りません。やってみたら、そこに面白さを感じられる方も大勢おられると思います。そうでも無いかもしれません。人に寄りますね。 良く車を引き合いに出す事が多いのですが、車が移動手段である時、それは完全オートマチックになるのが最も良い。便利です。でも、それがもし、移動では無く、何がしかの面白さを求める時、オートマチックでは面白くない。動けば良いわけでは無く、フィーリングを求めるわけです。アクセルのタイミング、ステアリング、ブレーキング、その時の車体の重心や遠心力や、足回りのフィーリングを得るわけで、好きな方はそこに面白さを感じます。 ヨットも同じで、先に述べました通り、ヨットが移動手段だけなら、こんな効率の悪い物、不便な物は無い。よって、ヨットは移動手段以外の、何かが必要になります。エンジンで行く旅にしても、海を走るという感覚は車とは違いますから、そのフィーリングがあります。それだけでも十分と言われる方もおられるでしょうが、でも、そこにセーリングというヨットならではの感覚を付加する事によって、さらにフィーリングは増加し、何がしかの他ではできないフィーリングを得られるのではないかと思います。何かをする目的はひとつ、それでどんなフィーリングを得られるかではないでしょうか？ 全ての行為はフィーリングに通ず。仕事たくさんして、お金をどっさり儲かって、それで得られるフィーリング、その稼いだお金で買えるフィーリング、質の良い車、質の良い家、質の良いスーツ、質の良いヨット、これらを得るフィーリング、得て使って得たフィーリング、全てはこのフィーリングの為、いかに心地良いフィーリングを得られるか？ それと同じ事を言っています。いかに良いフィーリングを得るか？ヨットをするなら、海での移動のみならず、せっかくですからセーリングから得られるフィーリングもしっかり得ておいた方が得であります。と言っても、良いフィーリングばかりとはいきません。でも、これも全ての行為には、山と谷の二つがくっついてきます。山だけの波は無い。山だけ得る事はできない。その山の為には、谷も必要になる。それが嫌なら、何もできない事になります。全てはそんなもの。山だけは無理ですが、山を体験している時は楽しい。しかし、谷も含めて体験しますと、面白いに変わる可能性がある。 楽しい人生はあり得ない。でも、面白い人生の可能性はある。 まあ、そんな事はどうでも良いのですが、全ての方にセーリングを遊んで頂きたい。移動では無く、走らせるセーリングを。１００mは誰でも走る事ができます。でも、一歩進めて、いかに走るかを考えますと、それは全く別の世界に変わる。何故そうなるか？ その次元の走りが解ってくるからだと思います。 |