第四十五話 ヨットの進化
FRP時代になって約50年とちょっとくらいでしょうか?木造艇とは違って、量産化が可能になった。 マストも木からアルミに変わり、現代ではカーボンもでてきた。このように素材としての進化は顕著です。セール素材もしかり。この事は、ヨット人口の増加に繋がっていきます。ヨット人口が増えていきますと、昔の愛好家だけでは無く、もっと広い範囲で彼らの好みを反映させていく事になります。 また、船体は幅広で、キャビンも広くなりました。クルージング艇のここ最近の進化はキャビンの広さが顕著です。その広くなったキャビンには快適性が求められますから、当然ながらエアコンが装備されてくる。温水は当然ある。 昔のヨットの進化は、セーリング性能にあったような気がします。しかし、その後は快適性に移行する。快適性を追求していくうちに、セーリング性能がそがれる事もあります。しかし、もはやセーリング性能について、快適性を削いでまで求める事も減少してきました。 誰もが、走る物は重心が低い方が良い事は知っています。でも、その為に快適性を削ぐような事はしたくない。昔のヨットは大抵は35%ぐらいはバラスト比はあったと思います。おまけに、キャビンも今程大きくは無かった。でも、最近はいつの間にか、30%を切り、20%台前半というのも珍しくは無い。さらに、キャビンは大きくなってきているわけですから、その安定性はどうだろう? そういう事を考えますと、今後の進化はどうなっていくのでしょうか?キャビンの大きさ、快適性も、そろそろ限界に近づいてきているような感もあります。さて、次は? 先日紹介しましたムーディーの45DSのように、キャビンが潜り込むような感じでは無く、大きな窓で明るいキャビンというのが出てきています。キャビンの進化がもう少し進む。 こうなってきますと、エアコンは当然、ウィンチは電動、セールはファーラーというのが相場。しかし、どうなんでしょうか?快適性というのはもちろん重要なファクターであります。しかし、この快適性ばかりが強調されすぎるような感じもします。それは、本来ヨットに乗るというのは、何が目的であったか?快適性ばかりを追求しすぎると、ちょっと強風になった、雨が降った、波が高くなったというだけで、あっという間に快適性は削がれてしまう。こうなっては、エアコンも温水も歯が立たない。 広いコクピットに、大きなテーブルは快適な感じがします。でも、いつも天候は好条件とは限らない。そういう時は乗りませんとも言えますが、どこかに行ってからでは遅すぎる。 過去20年の進化はキャビンに代表されるような快適性の追求だったと言えます。これは今後も続く面もあるでしょうが、一方で、多くの人達が解ってきた事もある。快適性を求めるなら、まず第一にセーリングにおける快適性がほしい。キャビンも大事かもしれませんが、それ以上に、セーリングのし易さ、安心感、強風や波に対する強さ、そういう事に目が向いていくのではないかと思います。つまり、もう一度、セーリングに目が向いていく人達も増えていくのではないかと思います。 エアコンの効いた快適なキャビンと快適なセーリングと、どっちが良いのか?こうやって、考え方は二分していくのではないか?より快適なキャビンを求める層と、より快適さをセーリングに求める層との分離が出てくるのではないでしょうか? 現時点では、量産艇と言われるヨットはみんな快適キャビンに向かって競争しています。セーリングに向かうヨットは少量生産。市場がそういう答えを出しています。でも、根本的に違うのは、快適性は面白さとは違うという事です。つまり、快適なキャビンだけでは面白くないので、何か別の面白さが無ければいけません。快適なキャビンで宴会するとか、昼寝するとか、読書するとか、いろいろです。 一方、快適なセーリングができる場合、それだけで面白い感覚が得られる。つまり、行きすぎた振り子は反対側に振り替えす。快適キャビンもOKです。でも、一方では快適セーリングがなおざりになりすぎた。これからの進化は、もうひとつの流れとして、快適セーリングを目指すヨットが増えていく?そう願っています。ひょっとすると若い人達がヨットに来ないのは、面白く無いからではないか?安全の確保、操作性の良さ、スピードももちろん、乗って面白いヨット、セーリングが面白いヨット、これがこれからのもうひとつの流れとして進化が求められるのではないか?そうあってほしい。 人は楽を求めますが、でも、一方で、面白いと感じたら、何だってやりたくなるもんです。じっとしていれば快適なものを、それを敢えて捨ててでも、面白い事を求める。それに苦労も努力も感じ無い。そこにこそ充実感も感じられる。楽ししいだけでは不十分で、本当は面白くなければならない。ヨットなんていうものは、面白くないと、そうしょっちゅうはやれません。面白さが無いと、人は快適性を求める? そういう意味で、これからのヨットには、面白さを追求した進化を望みますね。もちろん、温水やエアコンもあって良い。でも、どんなに快適であろうと、面白いセーリング程、充実感は得られないのではないか?快適性は陸上でも求められます。でも、セーリングはヨットでしかできない。そのヨットをやろうとすると、やはり面白いセーリングを求めたい。客船に乗ってるわけじゃありませんから。 セーリングの進化の答えのひとつがデイセーラーだと思います。重心の低さ、帆走の速さ、安定感、シングルでも楽に動かせる操作性の良さ云々。でも、これで十分とは言いません。もっともっと何か進化の余地はあるだろうと思います。このセーリング性能にもっとキャビンをと求める人には、デイセーラーコンセプトでサイズが大きなヨットというのが建造されています。これも当然の流れかもしれません。この他にももっと進化の余地はあるでしょう。そこに今後期待したいと思います。 ヨットの面白さはどこにあるのか?テーマはこれですね。面白いのが何より一番です。何故なら、ヨットは純粋に遊びのおもちゃでありますから。便利なおもちゃより、面白いおもちゃの方が良いと思いますね。 |