第五十九話 進化の方向

世の中は常に進化していきます。ヨットもスピードは遅いものの、常に進化してきましたし、今も進化し続けています。進化するにはその方向性がある。例えば、レーサーならば、スピードを求めます。ですから、より速くとなるのですが、ヨットの場合、レースのレーティングの事もありますので、レーティング上有利になるという事も考慮されつつ進化していきます。

他のヨットの場合、クルージング艇ですが、進化の殆どは便利さの追求とキャビンの快適性の方向にあったと思います。ファーリングシステムの導入、ドジャーやビミニトップ、それから、メインセールにもファーリングシステムが導入されるようになり、ウィンチは電動とかです。これらは、操作における便利さを求め、コクピットでの快適性を求めています。また、キャビン内は広く、温水が出たり、電子レンジ、エアコン、テレビ、DVD,ステレオ、これらは家庭での利便性を導入。ヨット自身の進化は広いキャビンという事になるでしょう。

クルージング艇の進化は、必ずしもヨットがヨットである為の進化ではなかったような気もします。大きなキャビンになる事によって、快適キャビン空間を作り出したとはいえますが、その分、重心は高くなりました。その事がセーリングにおいてどんな影響を与えたか?昔、20年ぐらい前のヨットを見ますと、フリーボードは低かった。それでも、天井に頭がつかえる事はありませんでした。セーリングにとって重心が低いというのは大きなメリットになります。でも、クルージングの多くの場合、あまりセーリングを重視してこなかったのではないか、それより空間としての快適性を求めたのではないかと思います。

沿岸のクルージングにおいて、セーリングでは無く、エンジンで走る事の多い場合、それでも良かった、むしろその方が良かったのかもしれません。クルージングは旅を楽しむものであり、セーリングを楽しむものでは無い。外洋の旅では、燃料が持たないからセーリングをする。

クルージング艇がそういう方向に向かった時、セーリングを楽しみたいが、レースするわけでも無く、またクルーの確保も嫌だというなら、必然的にセーリングを楽しむ為のヨットが生まれる。もはやクルージング艇のそれとは違う。クルーを必要とせず、シングルでも簡単に操作ができ、尚且つ高性能セーリングを味わえる。そういうヨットが生まれた。これは時代の進化の流れから見れば当然の事と思われます。レースをしないからクルージングという分け方に疑問を持った人が居た。

そこで、旅はそこそこに、セーリングを中心にすえて考え出されたヨットがデイセーラーという事になります。これも時代が生み出した進化のひとつではないかと思います。まだまだ進化の途中ではありますが、デイセーラーというヨットを生み出した事は新しいジャンルを作りだした事になり、それまではクルージング艇とセーリングヨットは一体であったものが、クルージング艇の進化の方向性によってセーリングヨットとは分離してきた。この分離によって、セーリングヨットはかつて無い程にセーリング性能を高める事ができた。なにしろ、キャビンの事はあまり考えなくて良いわけで、よりセーリングに集中してデザインする事ができるようになった。

ハーバー25というヨット、アレリオンというヨット、これらでセーリングしてみると解りますが、従来のクルージング艇のセーリングとは明らかに違う。という事は、分離したお陰で、質の異なるセーリングを味わう事が誰でも簡単にできるようになったという事になります。

あるひとつの事だけを追求していきますと、事は簡単になります。しかし、どうしてもふたつ以上が課題になる。レーサーはスピードのみならずレーティングも考慮します。デイセーラーは帆走性能を求めつつイージーハンドリングも要求される。デイセーラーがイージーハンドリングを求めないようになりますとレーサーに近くなっていくのかもしれません。

セーリングとキャビンという両立は悩ましい問題でしょう。高性能の快走セーリングをイージーハンドリングでできて、尚且つ快適キャビンの両立という問題は、これからの進化を待つ事になると思いますが、デイセーラーはこの事をサイズを大きくする事でひとつの答えを出しています。但し、それでも、一般クルージング艇ほどには広いキャビンとはいきません。という事は、進化の度合いは待つ事にして、常に、その時々の使い方の割り切りがどうできるのか?使う側も進化せねばなりません。その方が楽しめる事には間違い無い。

快適なキャビンで過ごす事を主にした場合、そう割り切れるなら、ヨット選びにはたくさんの選択肢があります。セーリングを主体にしたいならデイセーラーがお勧めです。どっちにしても、割り切る事になります。今までは、クルージングというジャンルだった為に、セーリングに割り切る事が難しいと思われた。しかし、考えてみれば、大きなキャビンを持つという事は、これも割り切っているのと同じになります。徐々にクルージングは、そういう方向に向かわされてきた感もありますので、そこに気がつきません。

キャビンを諦めれば、質の異なるセーリングを味わえる。セーリングを諦めれば、快適空間が手に入る。どっちが自分のスタイルなのか?どっちが面白いのか?今はまだ両方を得る事はできない。今後の進化が期待されます。

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