第六十一話 速さは面白さ

セーリングをするという行為においては、やはり速いというのは面白さの大きな要因になります。速いか遅いかは相対的な比較によるものですが、速さを感じるヨット、速さを感じさせてくれるヨットというのは実にセーリングしていて面白い。

速いと、今度は操作を楽しむ事もできます。レスポンスの良さも面白さのひとつです。微妙な舵取りにおいて、その反応がある。ちょっとした風の変化に反応する。そういうヨットというのは、走っていて実に面白い。セーリングを楽しむという次元においては、是非獲得したい性能であります。

だからと言って、レーサーのような大変な思いをするとか、クルーが必要とか言うのでは、我々が一般的に日常において楽しむには、ちょっと大変になる。これはちょうど、我々が車を考える時、プロが乗るようなレーシングカーでは大変ですが、一般が乗るスポーツカーなら気軽に楽しめる。そういう違いと同じであります。

昨今では、仕事を引退された方々が、子供達は独立し、夫婦だけになった時、スポーツカーを購入されるケースが少なく無いようです。走って面白い。そのフィーリングはやはりセダンとは違うものです。遊びとは、フィーリングを楽しむものです。そのフィーリングがどんなフィーリングであるのか?それがスポーツカーの存在価値でもあります。もはや、何人も乗せて出かける事が必要で無くなった時、遊びとしての車が面白くなり、セーリングも同様で、そういうヨットの方が面白い。

ヨットははなっから、遊びでありますので、まして家族が来ないのなら、スポーツカーならぬデイセーラーの役目は大きいかと思います。ヨットはセーリングを楽しむか、旅を楽しむかどちらかに絞った方が、活躍の場面は多くなります。

デイセーラーはセーリングに重きを置いています。レーサーでは無いセーリングです。そこがこれまでには無かったヨットです。不思議ではありますが。

走る事を楽しむ。それは理屈では無く、別な世界のフィーリングをもたらしてくれます。大きなキャビンで、エアコンが入っていようが、温水が出ようが、はたまた、テレビやビデオがあろうが、このセーリングから来るフィーリングに勝るものではないと思います。しかしながら、人々はエアコンがある事の快適さは想像できます。温水が出る事の有難さも想像する事ができます。でも、セーリングのフィーリングがどんなものであるのか、想像する事は容易ではない。

でも、一旦、そういうフィーリングを得たなら、その極上のフィーリングを得たなら、そこから離れることはできなくなる。そういう世界をレーサーの乗り手は感じてきた事でしょう。でも、多くのクルーが必要とされるなら、操作が難しいなら、自分だけでプライベートに、同じフィーリングを得る事は諦めざるを得なかった。

レーサーと同じスピードとは言いませんが、それは操作性を容易にしている為でもあるわけですが、フィーリングとしては速さ、レスポンスの良さを感じられるヨットというのは、実に面白いと感じます。セーリングそのものが面白い。それは、エアコンや温水の快適性、キャビンの大きさから来る快適性との比較において、どう感じられるでしょうか?

ヨットはあくまで、外に向かって、何かをしようとアクションを起こし、そこから何か特別なフィーリングを得ようという遊びの行為であります。そこがいつの間にか、エアコンやキャビンの快適性に移っていきました。それはそれで、メリットもありますが、無くした物もあります。その無くした物を、もう一度取り戻そう、しかも、もっと深く、それがデイセーラーのコンセプトなのかと思います。速さは面白さ、それを支えるレスポンスの良さ、そして、それらを下支えする、ハルの強さ、剛性の高さ、スタビリティーの高さ、そういう物が一体となっています。これにキャビンが快適空間なら言う事無しなのでしょうが、そうはいきません。大きなキャビンはセーリングにはマイナスに働く。これをどこで妥協するのか?そこがポイントになります。

昔、20年ぐらい前のヨットには、フリーボードも低かったし、セーリングとクルージングの中間的存在だったのではないかと、今はそう思えます。その後、クルージング艇はキャビン重視になり、そこで、デイセーラーというセーリング重視のヨットが出てきた事は必然であります。そして、両者のセーリングが異なる事は当然であります。

ですから、キャビンヨットとセーリングヨットは別物という捉えかたをしています。何度も言いますが、どちらも、両方できるが、得意分野が異なる。キャビン性能とセーリング性能が違う質のものになっています。そして、セーリングするに、速さは面白さなのです。

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