第八十話 メインテナンスの意義

日本のヨットやボートは年式が物を言う。それは車から来た考え方。車を10年程度としか見ていないから、年式が大きなウェイトを締めてくる。10年以内なら、そう大きく壊れる事は無い。10年あたりを過ぎたあたりから、少しづつ故障してくる。オイル漏れ、ラジエーターの水漏れ、等々。過去に経験してきました。考えてみれば、日本中舗装された道路を走り、しかもフルスロットル等せず、車検もあり、ガソリンスタンドでも、ちょいと見てくれる。そんな環境にあるのですから、壊れなくて当たり前でしょう。

そこいきますと、ヨットやボートは、まず環境が違います。潮風に吹かれ、いつも雨ざらしで、波に叩かれたショックは相当なもの、おまけにヨットには、風という大きな力が加わる。そういう過酷な状況に耐えるのですから、すごいもんです。そして、10年どころか、10年は序の口、20年、30年、そろそろ40年に達っしようかというヨットも現役である。そういうヨットと車を同列にして、年式で測るのは間違っている。

10年以内なら、年式も良かろう。でも、それ以上過ぎたら、年式よりも、どれだけメインテナンスされてきたかが重要になる。船体は多分、50年ぐらいもつだろう。そうなると、設置されている部品の方が持たない。よって、長い年月の間に、どれだけメインテナンスされ、どれだけ部品交換されてきたかの方が重要かと思います。こうなると年式よりも程度が重要。

船内にはいろんな装備があります。清水を電動で汲みだすポンプ、ビルジポンプ、温水、計器では、風向風速、スピード、GPS云々、そういうのがみんな20年経っているなら、たとえ、今動いていても、いつ壊れても仕方無いかもしれない。もちろん、もっと長く持つかもしれない。でも、それが何年に交換されたとか、何年にどういうメインテナンスをされたとか、そういう事によって、もっと長く持つわけで、そこが重要になってくる。

テレビはもう10年になると、長く使ってきたと感じます。ところが、ヨットについては、10年というと、あまり長いという感覚は無い。その感覚の違いは何か?しょっちゅう使っていませんからね。でも、使わないから壊れる。同じような感覚で言うなら、いろんな装備は10年も過ぎていれば、壊れても仕方無いという事が解ります。という事は、それらが整備されたり、交換されたりしている事の意義は非常に大きい。

20年前のGPSが動いているからと言って、いつ壊れるか解らないGPSより、最新のGPSの方が安心です。それに昔は数十万したのが、今ではGPS/魚探でも、10万を切ったものがあります。それに使いやすい。

ですから、本当は年式で判断するというよりも、どれだけメインテナンスされてきたかで判断する方が良いかと思います。もちろん、船体の状態も見ます。ところが、こういう習慣が無いので、年式判断が大きいので、日本ではメインテナンスがあまりされない。錆びだらけのポンプでも動いている間は交換しない。

しかしながら、今後、30年物、40年物が多くなってきますと、必然的にそういうメインテナンスが重要視されてくると思います。これが歴史というものでしょう。欧米の中古が高いのも、そういう時期を経てきたからではないかと思います。残念ながら、現時点では、まだ年式が物言う世界の日本です。それに欧米は、家屋にしても、長く使うし、日本で、個人の暮らしの中で、40年も50年も使う物があるだろうか?飾りとしての骨董品は別ですが。歴史的建造物は非常に古いのがありますが、一般では、殆どそういうのは無い。

つまりは、消費社会から来ているという事も考えられます。しかし、ヨットはいよいよ30年、40年の世界に突入してきています。そんな古いヨットは捨ててしまうという道もあるし、或いは、もっと長く使おうという道もある。それは今後次第。先日、あるヨットが処分されました。30年オーバーぐらいだったでしょうか。まだまだきれいに、それも現役で使われていたヨットでしたが、あげますという事でも引き取り手は無く、処分されていきました。残念です。

冷静に考えますと、ヨットは艤装品も含めて、極めて長持ちです。そのうえ適切なメインテナンスを施す事によって、もっと使う事ができます。メインテナンスをきちんとやる事を前提に考えれば、50年を寿命とするなら、中古艇の価値に対する考え方も変わってくる。日頃のメインテナンスはもちろん、10年毎ぐらいには全体を見直して、次の10年を快適にする整備を考えても良いかと思います。もちろん、費用の問題もあります。しかし、日頃のメンテナンス次第では、これも安くする事にはなると思いますし、大きなトラブルを未然に防ぐ事にもなります。

大きなヨットには、たくさんの装備がなされますので、その分メインテナンスする箇所も増えるわけです。大きなヨットを所有する宿命でもあります。この際、使う物、使ってこなかった物等を考えてみてはいかがでしょう。荷物は少なくして、出来るだけフットワークを軽く、これからの10年をどう使うかを見ながら、どうメンテナンスをしていくかを考えても良いかと思います。ヨットはメインテナンス次第、古くなればなる程に。

何年も前ですが、アメリカから20年以上の船齢のヨットが日本に輸入されてきました。見ると、非常にきれい。ピカピカでした。チークデッキもピカピカ。なる程、価格が高いはずです。20年以上たったら、船齢よりもメインテナンスが物を言う。日本もいつかは、そういう時代になるかもしれません。なるべきでしょうね。そうなると、古くても、レストアとかする価値はある。メインテナンスの意義も大きくなる。

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