第72話 もっと気楽にいきませんか?

どうして皆さんヨットに乗るなら、あれもこれも準備して、習熟して、安全確保、うんぬんと叫ぶんで
しょうかね。もちろん、おっしゃる事はごもっとな事ばかり、正しいのです。ですが、そういう記事とか
話とか、そういう事しか聞かない。おっしゃる事はごもっともでも、これからヨット始めようかという方
には、そこまで要求しない。習熟しているに越したことは無い。でも、最初からは無理です。必要
と思われる冒険をしたい方が、その時に練習すれば良い。そう思ってます。

私の願いはひとつ。一人でも多くの人がヨットを始めること、その手助けをしたいだけです。その先
の冒険をどうするかは本人次第です。大きな冒険こそがヨットマンでは無いと思っています。まずは
誰でも、気楽にスタートできる環境を作ることだと思います。スタートするのに、あれもこれもでは、
誰でもめげてしまうし、その必要も無い。よちよち歩きから普通に歩けて、走れるようになれば、まず
はOK。充分にセーリングを堪能できますし、りっぱなヨットマンといえるでしょう。セーリングの楽しさ
感覚を体感してもらうこと。この至福の体験を感じられれば、それだけでも充分です。あとはおまけ
とさえ思っています。

ですから、もっと気楽にいきましょう。ホームポートから出発して、セーリングを堪能して、帰ってくる。
ヨットのヒールした走り、ティラーに伝わる波の感触、顔に当る風の感覚、ちょっとした操作で微妙に
反応するヨットの動き、これらが全部体で感じられます。それらは全て、半径5マイル以内でも充分
堪能できるのです。大きな冒険に挑む勇気はりっぱなものです。でも、それよりもっと気楽にヨットを
出そうと思う気持ち、もっと素晴らしいセーリングを感じたいと思う気持ち、それが大切です。

陸上競技に短距離走と長距離走がありますが、ヨットも同じ。最初は短距離走で、セーリングを楽
しむ。この短距離を極めたいと思っても良い。これだけなら、それほどの航海術など必要では無い。
それより、ヨットを知り、自然を知り、技術を磨いていけば、りっぱな短距離ランナーです。始めは皆
短距離ランナーで良い。それを極めたいと思う人と長距離ランナーになりたい人が居る。どちらでも
良い。

100m走の選手がマラソン選手に劣ることは無いわけですし、長距離ランナーは長距離において素
晴らしい走りを見せ、短距離ランナーは短距離において素晴らしい。これと同じです。

もっと気軽にデイセーリングをしましょう。どんどん乗って、セーリング自体を体感し、セーリングの技術
を磨きましょう。そのレベルに応じて、素晴らしい体験ができます。そして、これも極めることのできない
奥の深さがある。長距離ランナーを目指したい方は航海術を覚え、練習し、旅をしましょう。これも極め
る事のできない奥深さがありますね。どちらが上でも下でもなく、ただ、種類が違うのです。

難しいことは脇においといて、ヨットは気楽な遊びです。本当は簡単なのです。皆が難しくしているので
す。簡単な所は言わずに、難しいことばかり聞くからいけないのです。この気楽を終生持ち続ける事が
できるなら、最高に楽しむ事ができるでしょう。今難しい事は先にすれば良い。簡単でできる事から始め
る。かつて難しかった事が先には簡単になる。

まずは、自転車のように、サイクリングに行けるまでになればいいのです。簡単なことです。そんなことよ
り最も大切なのは、感じる心を持つ事ではないでしょうか。5マイル走って帰ってきた。それでも感じる心
を失わなければ、幸福です。

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