第90話 フィッシャーマン 2

徹底したスポーツフィッシャーマンは最高の走りをします。でもいかんせん、皆さんが求める広いキャビン
とは両立しないのです。これがプロダクション艇を建造する造船所がディープV型船型にしない理由です。
彼らは解っている。でも、売れないと困るのです。これが解って狭くても良いという人が少ないからです。
デザイナーが本物のディープV型船型をデザインして、造船所に売る。でも、造船所は自分の所でそれを
変える。船底を少し広げたり、フリーボードを高くしたり、そういう物なのです。

そこで、アメリカには小規模造船所がたくさんあるんですね。そういう本物が解った人達の為に最高のボー
トを造ろうとする人達が大勢います。これはもう商業ベースではありません。年間に1艇か2艇しか造れ無い
そういう造船所です。殆どはファミリーの運営ですね。彼らの仕事は実に丁寧で、裏の裏まで見事です。
儲かる為なら量産が一番です。でも、彼らは最高のボートを造って彼らのブランドを保とうと、最高の金メダル
と評価される事を望んでいます。たくさん造らなくて良い、でも世界最高を目指す。そういう造船所です。

そして、その近くのマリーナにはこういうボートばかりが並ぶマリーナがあります。そこには殆ど一般の我々
が知っているボートはありません。最高ランクのボートばかりが並ぶマリーナです。それらは日本では殆ど
知られていないボートばかりなのです。

これらはカスタム又はセミカスタムで建造されます。セミカスタムは船体のモールドがあり、船型が決まって
います。あとは自由自在にオーナーのご希望のレイアウトにて建造されます。そしてカスタムの場合は木造
です。近年、エポキシ樹脂の発展によって木造艇が注目されています。メガヨットなども木造で建造されてい
ます。例えば、骨組みを作って、マホガニー材を板状にして樹脂を浸透させ、木目の繊維の方向をクロスさせ
ながら3層ぐらい重ねていきます。この繊維の方向で強い船体ができあがる。これに外皮としてFRPを薄く積層
これは化粧のようなもの、外観はこれでFRPと同じになります。積層後、表面と研ぎ、塗装、オールグリップと
言われる塗装などを施す。通常のFRP艇ではゲルコートですが、実際紫外線には弱いのです。ゲルコートが
やられたらウレタン塗装を施してやった方が良い。セミカスタム艇のFRP艇でも建造開始にはゲルコートを使い
ますが、型から抜いたら、サンディングしてそのうえからわざわざ塗装しなおすのです。型から抜く時はゲルコー
トの方が都合が良い。

最高のスポーツフィッシャーマンを造るならこういう方法が最も良いと思います。最高のフィッシャーマンは波に
ソフトで、波が上がって来ないのでデッキはドライに保てる。スピードは速く、航続距離は長い。操作性の自由
自在、実に速いレスポンス。でも、キャビンは他のプロダクション艇の広さにはかなわない。だから、本気で釣り
をしたい方へはお奨めです。そこで、それでも広いキャビンが必要な方はサイズをでかくする。こういう方式です。

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