第十五話 キャビンとセーリング

理想的には、帆走性能の高さ、充分なスタビリティー、艤装のハンドリングのし易さ、そして、充分なキャビンのアコモデーション、それらがみんな揃っていれば、これに越した事は無い。でも、実際はそうは行かないのが現実ですね。

キャビンを充実させて、広くとる。広ければ、それなりの家具類が設置され、装備類も増えてきます。という事はその分重量が増し、重心位置も高くなる。ならば、そのれに見合う重いキールを設置すれば良いのでしょうが、今度は、全体重量が重くなりすぎる。重くなりすぎると、それに見合うセールエリアを持ってこないと走れない。それで、キールを軽くして、全体重量を抑え、重心が高い分セールエリアを抑える。クルージングという意味ではそれで良いのではないかと思います。

一方、セーリングを充実させる為に、軽い重量の船体に抑え、しかも、重心を低くデザインする。その上、高いバラスト比のキールを設置する。そうしますと、船体のトータル重量が、仮に同じだとしても、このふたつのヨットは性格が全く違ってきます。まあ、同じ重量という事はありませんが。
セーリング性能を高くする為、重心を低くする為、キャビンは狭い。

キャビンとセーリングの両方を何とかしようとしますと、これはもうヨットのサイズを大きくするしか無い。人間の身長は小さいヨットに乗ろうが、大きなヨットに乗ろうが変わらないわけですから、30フィートヨットの時のキャビンの高さも、50フィートのヨットにするからといって、それ程高くする必要も無いわけですから、でかいヨットの方が、キャビンも広く、重心も低くする事ができる。それに、見た目のデザインも良くなる。長さと高さの比率のバランスが良くなる。

但し、今度は、大きなヨットになれば、それなりのクルーが必要になり、メインテナンスもそれなりになります。もちろん、大きなヨットは高価にもなるし、維持費もかかる。

30フィート前後のデイセーラーは、高いスタビリテーを持ちますが、キャビン天井が低い。セーリングとしては文句無いでも、キャビンも何とかと思われる方には不満も残るかもしれません。従って、そういう両方を満足させるサイズというのが、やはり40フィートぐらいは必要なのかもしれません。それで、デイセーラーの40フィート、或いはそれ以上というのがあります。これぐらいになると、キャビンもそこそこ備えたうえで、セーリング性能も高いままを維持できる。

一方、クルージング艇の40フィートあたりですと、このサイズありますから、もっと求められ、キャビンももっとでかくしていきます。フリーボードの高さをみれば歴然です。ハルも丸く太い。コンセプト的に、それでも良い。

そこで、理想のヨットはそれぞれ違うでしょうが、クルージングならクルージング艇、当たり前ですが、セーリングとキャビン重視で、クルーが居るなら、レーサークルーザー、シングルを含めたショートハンドなら、デイセーラー、そんなところでしょうか。

何かを取れば、その反対の何かを捨てる事になります。捨てれば捨てる程に、残った物の威力は大きくなる。難しい判断かもしれませんが、割り切れると、もっと楽しめますし、割り切れた自分自身にも何だか自信が残る。

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