第五話 コントロール 

どんな状況であれ、自分のコントロールの範囲内にあるのであれば、安心ですし、楽しむ事ができます。シングルであれば、全て自分でコントロールしなければならないので、その範囲は、クルーが居る時よりも狭くなるのは当然です。自分の熟練度、クルーの数と熟練度にもよります。

ヨットの違いもこのコントロールに影響を与えます。当然ながら、安定性の高いヨットはコントロールし易い、しかし、だからと言って、小さなセールを持つヨットでは、帆走の面白みに欠けてくる。
スタビリティーとセールエリアのバランスがその差を分ける事になると思います。そして、そのヨットの艤装がどのようになっているか?各備品の配置等が熟慮されていなければなりません。従って、ひとりでコントロールするヨット、クルーと一緒に乗るヨット、セーリングを楽しむ点においては、違うヨットになってくる。

時化て、ヨットの性能や自分の技術を越えてしまうと、危険ですし、恐怖です。自分の腕は磨く事はできますが、ヨットは本来の性能を超える事はできません。ですから、ヨットの性能によっては、自分の腕でカバーするという事にもなります。逆に、ヨットの性能が高ければ、その分楽にコントロールが可能となる。

自然はどう変わるか解りません。ですから、いくら自分の腕に自信があっても、やはりヨットが自分の味方になって、助けてくれる方が良い。ヨットを敵に回すと、自然とヨットと、両方を相手にしなければなりませんが、ヨットが味方についてくれれば、ぐっと安心感が増す。そういう意味で、ヨットの性能は大事であります。ヨットがどんな安心感を与えてくれるか、どんなセールフィーリングをもたらしてくれるか、そこが検討されるべきかと思います。

キャビンとは違って、目には見えない性能ですから、判断は難しい。でも、そこを見ようとするのが面白さでもあります。ゲームは既に始まっています。これまでの経験と照らし合わせて、このヨットはどんな走りをするだろうと想像します。排水量、船体の重心は高いか低いか、それに加えてバラスト重量はどんなか、船底形状はフラットか、角度がついているか、バウやスターンのオーバーハングはどうか、キール形状はどんな形か、セールエリアは?船体の作りはどうなのか?堅いのか?剛性はどうか?ラダーはどんなラダーか?これらは、必ずしも数値としてデータ化されたものばかりではありませんので、想像するしか無い部分もありますが、そこが面白さです。

全ては相対的ですから、過去の経験との比較になります。その過去の経験より、どう違うかを想像して楽しみましょう。厳密には解らないものの、だいたいは解る。ひとつのヒントはそのヨットが持つコンセプトです。重量もセールエリアもリグも、そのヨットの持つコンセプトを反映しています。ですから、コンセプトによるジャンル分をして、望むコンセプトを選ぶ。難しいのは同じコンセプトから、どのヨットを選ぶかです。これがまた面白い。

自分のコンセプトは何か?キャビン重視か、スピード重視か、セールフィーリング重視か?どんなセールフィーリングか?難しいですね。知れば知る程に、求めるものも難しくなる。でも、面白い。
最後の決め手は勘です。惹かれる何かがある。ですから、いつも自分の感覚を意識します。それに慣れれば、勘を頼りに決定してもうまく行く。何しろ、自分の本当の感覚は、自分に正直だと思います。その点、頭脳は嘘をつく。勘で、このヨットに惹かれていても、頭脳がいつもまてよとストップをかける。だから失敗してしまう。常識という嘘、一般論という嘘に騙される。自分の感覚はコンパスの役目、でも、慣れていないと失敗しますから、これも要注意。

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