第九十五話 働く乗り物

子供の絵本に、仕事をする為に使われる乗り物の写真なんかがあります。電車やバス、飛行機は人や荷物をある地点から、別の地点に移送します。それが仕事という事ですね。消防車は火を消すのが仕事、トラックや乗用車も人や荷物を運びます。これら働く自動車は、仕事を主目的に効率等が考えられます。

一方、遊園地の乗り物も仕事はするんでしょうが、ニュアンスがちょっと異なります。ジェットコースターは人を運ぶのでは無く、乗せてスリルを味わってもらう。メリーゴーランドは子供が好きですね。観覧車は高い景色を楽しみます。スリルもありますね。これらは、出発して、また元の場所に戻る事になります。移動では無く、乗っている間での楽しみ、スリル等々を味わう事が目的です。

ヨットが旅をする時、きっとそれは、ヨットにとっては仕事としての移動目的になります。そして、デイセーリングをする時は、遊園地の乗り物のように、乗っている間に、何を味わい楽しむかという事になります。つまり、旅をする時、ヨットの仕事は明確です。移動という事になります。しかし、デイセーリングの場合は、何を楽しむか?という事が主題になると思います。ですから、このふたつは違う種類の仕事をする事になります。

ピクニックセーリングでは、集いが主になるかもしれません。シングルの場合でしたら、セールフィーリングという事になると思います。つまり、セーリングをするという場合は、何を楽しむか、どんなセールフィーリングを楽しむか?そういう事が主になると思います。

そうなりますと、ヨットによって、同じ海域を同時に走っても、フィーリングは異なります。これがヨットの差になります。自分の望むフィーリングはどうか?これがテーマです。これは移動という事と同じであっては面白く無い。セーリングでは、セーリングならではのフィーリングが求められます。
何しろ、セーリングはそれにかかっています。

それがスピード、滑らかさ、安定感、バランス、レスポンスの良さ、等々、いろいろあるでしょうが、そういう部分が、操作して、反応してくれて、面白いというフィーリングを求めます。反面、難しい事はしたくないし、危険すぎるのも困る。安定のバランスを取りながら、安心の内に、いろんなフィーリングを楽しみたい。それがデイセーリングの主たる目的になろうかと思います。

同じように見えるヨットも、実は、そういう部分が各艇によって異なる。重いヨットは遅いし、レスポンスも鈍くなる。柔らかい船体ではスムース感も失われるでしょう。移動さえしていれば良い時とは、別な要素が要求されます。

そこまで求めないという方もおられるでしょうが、一旦、スムース感やレスポンスの良さ等々を味わったら、きっと誰でも面白さを感じられると思います。

クルージング艇は移動目的、デイセーラーはセーリングが目的、レーサークルーザーは両方でもありますが、やはりクルージング艇の移動やデイセーラーのセーリングとも違う。何ともややこしい話ですが、明確な使用目的があれば、その目的において、他のヨットでは味わえないものがある。

10年、20年という長期において、何を求めるかは、大きな違いをもたらす事になるでしょうね。ですから、主は何か、という事を意識するのは、とっても重要です。移動目的が主なのにデイセーラーにする。或いは、セーリング目的なのにクルージング艇にする。そういう選択の間違いは、せっかくのヨットライフに、いまいち、という感じをもたらしかねません。主目的はどんどん味わい、サブ的目的は多少の犠牲には目をつぶる。

クルージングが主とされる方が殆どではありますが、是非、セーリングという事も考えて頂きたい。
セーリングをいかに楽しむか?その面白さを味わっていただきたいと思います。それは遊園地のジェットコースターであり、観覧車でもあり、メリーゴーランドでもあります。セーリングは、遊園地で大人が遊ぶような乗り物でありますね。目の前の海域が遊園地なのです。

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