第二十話 詳細

ヨットとそのセーリングの全体像を掴んだら、各部の詳細を見ていく。それもひとつづつをじっくり観察します。まずは部品としてみます。例えば、ジブファーラーはどうなっているのか?どういう仕組みで巻いたり、開いたりしているか、回転が固くなったりする時、何故そうなるのか、何かがひっかっているのか?上から下まで、じっくり観察します。すると、たいていの事は解ります。

バングはどうなっているのか?バングはロープとブロックを組み合わせた物もあれば、シリンダーがあって、中に強力なスプリングがはいっているものがあります。ロープとブロックの組み合わせは、ブームを下に下げる役目、リーチを閉じる役目になりますが、他の方式はブームを下げるだけでは無く、ある一定以上はブームが下がらないようになっています。スプリングでブーム押し上げているのを、ロープ等で引いて下げる。本来はブームを下げる役目さえあれば、それがブームバングです。スプリング方式は、セールを降ろす時などに、ブームが完全に下に落ちてこないようにする為です。バングの本来の役目はブームが落ちないようにでは無く、下げる為です。それで、ロープ式の場合は、マストトップからブームのトッピングリフトを設置して、ブームが完全に下に落ちないようにしたり、レージージャックを少し太いロープにして、トッピングリフトを兼ねる事もできます。
バングには実は、ブームをマスト側に押し付けて、マストを曲げる役目もあります。

いかなるロープであれ、どこから始まって、どこを介して、どこに来ているかを、目で見て確認をする。いろんな艤装品も目で見て、どんな役割で、どうなっているかを確認をする。そうしますと、何か普段と違う事がありますと、どこを見るべきかの想像をする事ができます。それに、セーリングにおいて、こうしたいという時に、どこをどうすれば良いかが解りやすくなると思います。さらに、そういう理屈なら、こうしても良いはずではないか?という新たなアイデアも生まれる事もあります。

いわゆる森を見て、木も見るということです。全体像を掴んで、各部の詳細も解って、そうしたらたいていの事は解ります。幸いにも、ヨットは目で追っていけば、理屈で考えれば、多くの事が理解されます。それでもって、実際に使いながら、全体を組み合わせていきます。複雑なところは、各艤装品が単独で作用しているわけでは無く、いくつもの組み合わせで動きますから、それで難しさを感じる事もありますが、ひとつひとつをバラバラにして考えれば、解りやすくなると思います。

これらを理解したうえで、やっぱり難しさとして残るのは、セーリングにおけるどの程度の調整が適切かという事になります。全てが解ってしまえば、面白さも無くなりますが、セーリングには、このどの程度の調整が適切であるかというテーマは永遠に残ります。それも各部の働きを理解すればこそ、適切に近づく手段は得ている事になりますから、後は、実践からより適切を探すことになりますが、それが練習でもあり、遊びでもありますし、面白さでもあると思います。

そして、鋭い観察力があれば、わずかな調整の違いも、変化として感じられる事になりますから、その変化を楽しむ事ができます。最初は大雑把なセーリングになります。そこに鋭い観察力や感じる力が育ち、小さな変化さえも解るようになると、細かな調整という事もするようになるでしょう。それはレースだからでは無く、セーリングを遊ぶという意味でも必要な事かと思います。調整しても変化が解らないのであれば意味がありませんが、変化が解ると大きな意味を持ちます。

細かい部分にだけ捉われてもいけませんが、大雑把過ぎてもいけません。両方をバランス良く見ながら、遊ぶ事ができれば、セーリングは実に面白いと思います。この観察力の鋭い人というのは、時に、良くこんな事に気付くなと関心させられる事もあります。ブロックのネジがはずれかかっていたり、そういう事にまで自然に気がついてしまうようです。普段から、観察するという癖が身についているんでしょうね。本人は普通にしているだけと言われますが。

ヨットは誰でも最初は楽しいのですが、2,3年目ぐらいからやや気持ちが落ちてきます。その時にどうするかでしょうね?そこで、一歩進んで、ただ何気なく乗るだけでは無く、知識を増やしたり、観察したり、ある時期学ぶということを意識して進む事で、その後のセーリングへの対応が違ってくるのかもしれません。ある種の壁みたいなもんでしょうか?それさえ越えれば、知れば知る程に面白くなるのではないかと思います。ヨットに限らず、何でもそうですね。趣味は何でもそうです。それを越えれないと、レジャーで終わってしまい、レジャーは年に2,3回で良いという事になると思います。上達に向かうかどうかですね。上達に向かうと、レジャーとは違う面白さに出会う事ができると思います。

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