第三十三話 軽風と強風

軽風で走るなら、軽い方が速いし、船体強度もそれほど必要とされません。腰の強さもですね。それ程無くても構わない。反面、軽風で重いヨットなら、スピードは遅い。ここで言う軽い、重いは、そのヨットのサイズに対して重いか軽いかであって、単純に違うサイズで、何トン対何トンという単純なものではありません。でかい方が重いに決まってます。サイズに対する重量割合です。

それにセールエリアの大きさも関係してきます。その重量に対して、どのぐらいのセールエリアを持っているのか?当然大きい方が速い?軽風ではそうでしょう。でも、強風になりますと、状況は変わってきます。

幸か不幸か、風は無風状態から強風まであります。強風では乗りませんと言っても、途中から吹いてくる事もある。軽風に照準を合わせるか、強風に照準を合わせるか?二者択一を迫られる?

軽いヨットで大きなセールエリアを持ちますと、軽風では良いでしょう。でも、強風になってきたら?そういうことを考えて、レーサーなんかは、数枚のセールを持って状況に応じて交換したりしますが、通常ではそういうことはしませんね。それにセールチェンジしてくれるクルーも居ませんし。

逆に重いヨットの場合は、軽風では走らない。しかし、強風になってきますと、元気が出てきます。でも、軽風も強風もあるのが普通ですから、さあどうするか?

理想は、軽い船体、波に負けない強固な船体、それに重心が低く腰が強い、軽風でも走り、強風になっても、フルセールで走れるヨット。そういうキャパシティーの大きなヨットが理想的です。それで、クルーが不要なら、これにこした事はありません。こういうヨットはセーリングを楽しむうえに理想的かと思います。でも、そんなヨット、なかなかあるもんじゃありません。

そこに最初に目をつけたのがアレリオンなんです。最初はあるオーナーの要望で、カスタム建造しています。その後、プロダクション化されて、今日に至りますが、セーリングを軸に考えた結果、キャビンを犠牲にするという大胆な発想を持ちます。何しろ、キャビン拡大競争時代であり、これはレーサーを造ろうという発想でも無い。キャビンを削るというのは、勇気ある決断でありました。最初はオーナーさえ納得すれば、それで良かったわけですが、その後のプロダクション化においては、大変な決断だったでしょう。しかし、それを割り引いても、セーリングに重点を置いた。それまで、そんなヨットは無かったわけです。

船体は軽く、堅く建造する為にSCRIMP工法を採用しています。これはグラスと樹脂の割合を理想的にコントロールしバキュームにて圧着する特許工法です。これによって職人さんのハンドレイアップによる工法の2倍以上の強度を実現できる。軽く、波に負けない強固な船体を持つ事になります。さらに、ここでキャビンを低くし、重心を下げ、上部が軽くなり、その分バラストを重くして、さらに重心を下げる。ここで、腰の強さを実現します。もちろん、一方では、キャビンは直立する事ができなくなりました。ここは、デイセーリングという位置づけをする事になります。あくまで主役はセーリングと割り切ってしまう事になります。

次に、クルーを必要としないという事を考えますと、セルフタッキングジブにしたい。大きなジェノアでは、シートウィンチを回すにも、相当なる力が要求されます。それも舵を持って、風下で行う作業になります。セーリングを中心にと考えるにおいて、セルフタッキングジブは扱いはし易いが、セールエリアを削いでしまいます。でも敢て、そこに進み、その代わり、マスト位置をやや前にして、マストを高くして、メインセールのエリアを大きく設定します。メインセールはジェノアよりも、コントロールし易いし、タックもジャイブもジェノアより簡単にできる。そして、ジブをセルフタッキングにすれば、全部が簡単なのです。これで、セーリングにおいて、殆どウィンチを使わないでも、舵を持ったまま片手で操作ができるようになりました。

そして、さらに、ダウンウィンドセーリングにおいて、ジブブームを設定する事によって、上りから下りまで、このままで走る事ができる。もちろん、ジェネカーを使えば、もっと速いでしょうが、それはシングルである時の操作性のからみがあります。ジブブームは全くの素人でも、ダウンウィンドを楽しませてくれます。

レーサーでは無く、一般の我々が、セーリングを楽しむ、スピードを楽しむ、安定感の中で、軽い、簡単な操作であらゆるセーリングができる。しかも、簡単なだけでは無く、ベテランヨットマンにとっても、繊細な調整さえも、ちゃんと反応するヨットです。セーリング好きの為のヨットです。

軽風でも、強風でも、安心して走る事ができる。その反応を楽しむ事ができる。決して、セーリングがレーサーだけのものでは無く、一般に、広く遊んでもらいたい、面白い遊びとして、理想形があると思います。ただ、唯一はキャビンが、クルージング艇のようには広く無いという事です。でも、これに妥協してしまうと、セーリングが削がれる事になります。そんなヨットなら、他にたくさんあるわけですが、クルージングでも無く、レーサーでも無い、新しいヨット、理想としてのセーリングヨットなわけです。アレリオンはセーリングヨットです。

世界には、これらセーリングを楽しむ方々が増えてきました。その証拠が、他の造船所からも同じコンセプトのヨットが出てきた事です。セーリングの再発見です。しかも、レーサーのようにクルーを必要としない、今まであったようで無かった、新しいセーリングの世界です。クルージングに対しても、ウィークエンド程度の短い旅と限定する事によって、セーリング中心のジャンルを作り上げました。エキサイティングであり、最も手軽にできるヨットの世界、初心者から超ベテランにおいても楽しめるヨットの帆走性能を実現しています。

セーリングを楽しむという事は、そういうことではないでしょうか。スピードはもちろんですが、操作に対する反応の良さ、加速感、そして高い安定性があるからこそ、安心してセーリングを楽しめる。そういうヨットがあても良い、それどころか、かなり楽しむ事ができます。セーリングをレーサーに任せておくのはもったいない。

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