第六十四話 舵はセンサー

生きる事は感じる事だと思います。死んでしまっては何も感じなくなりますから、これは明白です。ならば、感じる事を重視しましょうという事になり、何をしている時も、いつも何を感じているかを重視しようという事になります。

セーリングはその感じる事にダイレクトに影響します。セーリングして遊んで、その遊びが楽しいかどうかでは無く、セーリングそのものを、今どう感じているかを重視します。セーリングとはそういう乗り方だと思います。これが、他のヨット遊びと違うところです。感じる事は楽しいかどうかではあまりにも単純すぎる。もっとたくさんの種類の感じがあるわけです。

舵はセンサーです。舵を握っていますと、いろんな感じが伝わってきます。舵は方向を決める為だけの道具にする事もできますし、センサーの役目もします。もちろん、セーリングにおいては、舵はセンサーです。舵から伝わるフィーリングを味わいます。そして、感じ取ったフィーリングでいろんな判断ができます。

どうも設計が良く無いのか、一部のヨットは舵が左とか右とかに取られるものがあります。重いのもあります、これだとなかなかセンサーとしては性能が劣る。良くデザインされたヨットは、直進性も良く、舵も軽い。すると、少しの変化も簡単に舵を通じて感じる事ができます。セーリングとしては、これは重視したい能力であります。

舵にはラダーポストがあり、そのポストがデッキを貫通しています。舵はスムースに回転しなければなりませんが、その為に隙間が大きく、ガタがあってもいけません。ステアリングホィールですと、これは解りづらいですが、ティラーですと良く解ります。これは走る事においては問題無いかもしれませんが、フィーリングとして良いものでもありません。滑らかに動き、カチッとしていなければなりません。

センサーとしてフィーリングを重視しますと、船底の汚れ等にすぐに気付く事が多くなります。いつものスムース感が損なわれる。キールの前面に藤壺がついていたり、舵に着いていたり。それでセールフィーリングが損なわれる。そんなに神経質にならなくても、と思われるかもしれません。でも、一旦良いフィーリングを味わいますと、スムースが普通であり、そうでないと気持ちが悪くなります。
逆に、いつもスムースで良い感じを味わっている事になります。

昔ですが、わずかな違和感を感じ、上架したところ、キールの最下部が少し汚れていたことがありました。良くこんなのに気付いたね、と感心された事があります。ちょっと良い気分でした。実際は、誰でも、フィーリング重視をしていれば、解る事でしょう。

帆走に滑らかさを感じると、非常に良い気分です。滑らかだからこそ、いろんな変化にも気付きます。フィーリングの変化として伝わってきます。ふっと風が上がるときに、わずかな加速感を感じたり、これも、おおっと感じます。

これらはみんなヨットの性能によります。それと自分がフィーリングを重視しているかどうかではないかと思います。良い設計の良いバランス、強固な船体、そして高いスタビリティー、これがセーリングをある特定のものにする。

後はセール調整。これは自分の腕次第、練習次第。人によって差が出るところです。良いヨットは、ピクニックセーリングでも良い感じを簡単に得られる。そこが基準になって、その後の腕次第で、もっとフィーリングを得ます。そういう遊びをします。ダイレクトにフィーリングを左右するセーリングを重視した乗り方です。遠くに行く必要も無く、誰でも遊べる身近な方法でありながら、ダイレクトにフィーリングに影響します。

実に安定して、滑らかで、肉体的には楽で、楽な分フィーリングに集中できる。そんなセーリングは実に面白いと思います。外の変化では無く、内側の変化を遊ぶ方法です。セーリング自体が、実に愉快なのであります。

次へ       目次へ