第七十七話 ヨットは西洋文化

ヨットはヨーロッパから始まった。そして、ヨーロッパは、ヨット遊びがし易いようにできてます。そこから生まれたキャビンヨット、ヨーロッパで遊ぶなら、最高かもしれません。

でも、ここは日本。海岸線は長いものの、多くは商業施設。ちょっと出て、簡単に寄れる所も無い。
10数年以上前になりますか、イタリアのジェノバからちょっと出て、小さな港に入りました。桟橋なんかはありませんが、スターン付けで、バウアンカー。上がってみると、小さな町でしたが、岸壁にいろんなお店が並んでます。しゃれたカフェだの、レストランだの。こんなのが日本にあれば、みんな来れるのに。こんな風景が当たり前のヨーロッパ。日本とは違うのです。

そんな環境で育ったヨット。キャビン重視のクルージング艇は必然なのかもしれません。クルージングして、あっちこっち寄れて、キャビンで寛ぐ。日本のように漁港に遠慮しながら入るのとはわけが違う。それに漁港に入っても、何も無い。何かしようと思ったら、遠いのです。

数マイル走れば、気軽に寄れる港があって、それもあっちこっちに点在し、しかも、歓迎されて、ちょっと寛ぐ場所があって、風光明媚で、それなら家族で来たくなります。家族で行くなら、キャビンがほしい。セーリング性能はそれ程重要じゃない。レジャーヨットで良い。キャビンに泊まるなんて事が、当たり前にもなるかもしれません。

でも、日本は違うのです。

キャビンは、そんな施設があっちこっちにあるから生きてくる。寄った港に洒落たカフェがあるから、キャビンが生きる。何も無いからキャビンが必要だというのとは違うわけです。いろんな施設があるからこそ、プライベートなキャビンが必要なのです。

何も無いからキャビンが必要なのは、それは一種のチャレンジをするようなもの。そんなのは家族では行けません。それが日本の環境です。ですから、キャビンが有効に利用されない。

そんな西洋文化を輸入して、日本で使おうにも、どうもしっくり来ない。キャビンに泊まって、丘を見れば、日本の漁港そのもの。いろんな漁具があり、漁船が留まっている。近くには何も無い。一般的に考えて、そんな場所で家族とクルージングしても楽しく無い。オーナーは良い。オーナーはヨット好きなんですから。でも、家族は違う。

そんなキャビンヨットをそのまま使おうなんて事に無理があります。これは日本人の遊びに対する価値観とか、仕事環境とか、そんな問題では無いように思えます。土台、環境が違うのです。

そこで、キャビン重視路線から頭を切り替えて、セーリング路線に向かう。ピクニックセーリングから、セーリングそのものを遊ぶ事に向かう。その方が、日本の環境を考えれば、理に叶っていると思えます。

散歩します。それなら家族でも楽しめる。どこかに寄ってとなると、目的地が魅力的でなければなりません。ちょっと出て、お茶してくるなんてところがあれば良いのですが。そんな箇所はそう多くはありません。だから、ピクニックセーリングをします。どこにも寄らないでも良い。ピクニックとセーリングを楽しむ。プロセスを楽しむ。セーリングの深さを楽しむ。

日本のオーナーは気の毒です。自分で演出しなければ、ヨーロッパみたいに、誰もエンターテインしてくれません。でも、それが日本ですから、日本として使い方を楽しむ方が良い。それをデイセーラーに見出したわけです。

風を楽しみ、海を楽しみ、セーリング技術を楽しむ。勤勉な日本人には、向上とか、習得とか、そういう進化を見ながらの遊びが似合うと思います。それに、日本には明確な四季があります。その季節感を感じながら、セーリングを楽しむ。そういう意味では、できればオールシーズン、何とか乗って、その四季おりおりの変化、情緒を感じたいものです。

夏は涼しいナイトセーリングを楽しみ、秋はセーリングにはベストシーズン。冬は空気がピリッと冷たく気が引き締まる。春を迎えて、温かさを感じ、そしてまた夏がやってくる。四季のセーリングを、もっとも気軽な方法で、季節を感じながら、セーリングを楽しむ。それが日本のやり方です。

こんなセーリングに、キャビンはあまり重要ではありません。せいぜい寝泊りができれば良い。それよりシンプルで、操船がし易く、帆走性能が高いヨットの方が面白いと思う次第です。それでやぱりデイセーラーなのです。

この夏、ちょっと慣れて、家族でナイトセーリングをしてみてはいかがでしょうか? エキゾチックな夜の海。夏でもちょっと涼しい夜の海。紫外線も心配ありません。気に入れば、泊まって、夜明けのセーリングも有りかも。

みんなと同じようにしていても、ちっとも楽しめ無い。それは周りを見れば明白です。心からヨットを楽しんでいる人は少ないのですから。何故なら、ヨーロッパと同じようにしようと考えたから。それは日本では無理なのです。環境が違うのですから。

それで、日本人流の楽しみ方を考えなければなりません。それが四季のセーリングです。

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