第六十四話 旅

人は旅が大好きですね。だから、多くの人達が、旅に夢を描きます。いつも、セーリング、セーリングと言ってきましたが、旅が嫌いなわけではありません。ただ、仕事をしているうちは、時間にしばられない旅は無理なので、そうなりますと、どうしても気分的に無理があります。ですから、引退して、すべてから解放されたら、のんびりした旅も良いと思います。

ひとりで旅に出られる方もおられますが、これはどうしてもひとりは寂しい。旅は、誰か、気心の知れた人としたいものです。あくまで個人的にはです。

こういう旅気分では無いので、今は、現役であるうちは、セーリングの方が面白い。そんな感じがします。ヨットの旅は、仕事合間の気分転換とはいきません。旅から帰って、また仕事が待っているという気分では乗れません。気分転換なら、車か電車で行く旅とか、ヨットならセーリングの方が良いように思えます。

ヨットの旅は、気分を変えたいから行くのでは無く、旅そのものを楽しみたいから。インスタント的に行くものでは無いような気がします。

でも、一泊二日程度の短い旅なら、ちょっとした気分で行けるかな? 近場で、もちろん、ヨットに泊まる。キャンプ気分を味わいに行くような。いつもとは違う場所で、夜のヨット。いい音楽と、コクピットで一杯飲んで、良い気分を味わう。星空を眺める。そんな味わいも、たまには悪くない。
まあ、インスタント的な旅ですが、旅というより、別な気分を味わいにいくような。それに、どこに行くかよりも、誰と行くか?

本格的な旅は、これとは別物ですね。旅はおおいなる冒険です。冒険は何があるか解りませんから、スケジュール通りには行きません。スケジュールを立ててはいけないのかもしれません。そんな冒険ができる人は多くない。みんな忙しい。

仕事引退したとしても、いろんな用事もある。人間、なかなか自由にはなれないものです。でも、完全に自由になったら、それはそれで寂しくなったり。人はいつも我儘であります。無いものが欲しくなります。

本格的な旅は長期間に及びます。という事は、誰か長期間暇な人と一緒に行きます。そういう相棒を見つけるのも難しいなら、かみさんと行くか? 実はそれも難しい。海外から来るヨットは、その多くが夫婦です。それが最も良いやり方でしょう。でも、日本の奥様方は、なかなかそうは行きません。となると、ひとり? 長期のシングルハンドは、やっぱり寂しいです。

どうもクルージングはやりにくい?あくまで個人的にはですから。

以前、スイスから来ていたヨットですが、オーナーは半年仕事して、半年クルージングという旅を続けていました。半年ごとに、ヨットは置いて、飛行機で帰る。また半年後に来て、クルージングを続ける。そういうやり方でした。そういう仕事ができるというのも羨ましい話ですが、例え、同じ条件であっても、誰もが同じようにできるとは限らない。

気分、考え方、価値観、そういう心理的な要因で、その人のスタイルが決まる。環境条件の影響もあるでしょうが、それは多分、心のエネルギー次第ではないかなと思います。やっぱり、心は重要ですね。そのエネルギーの高さ、低さ、広がり具合等がすすべてを決めているのかもしれません。

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