第十三話 日本発

ヨットの傾向は欧米からやってくる。日本発というのはありません。それゃあそうです。日本発となるほど、マーケットは大きくないし、成熟度も低い。この先、マーケットがどんどん拡大していく様子もありません。でも、少ないながらも、ヨットが日本で始まって数十年は経つわけですから、何か日本らしき物が生まれてきても良いかもしれません。

ビール1本片手に、延々何時間でもおしゃべりできるのが彼らです。パーティー好きの彼らです。
お話好きです。あるイタリア人、空港に送ってもらうのに2時間ぐらい車で一緒でしたが、まあ、良くしゃべる事。でも、内容はたいした事は無い。日本人なら一言で済ませるような事を、ことこまかくしゃべる。ですから長くなります。多分、日本人は同じ民族ですから、いちいち言わなくても解るだろうという前提があるのかもしれませんね。

そんな彼らにとって、ヨットはスピードを競うレースか、またはパーティー用か。そこに集中するのかもしれません。これ以上キャビンをでかくして、どうするの? とか思っていましたが、まだまだでかくなる傾向にあるようです。最近のヨット、コクピットの床の高さから、キャビンに入るのに、段差はわずか。広いキャビンに広いコクピットの仕切り的な壁を低くした。一体感が持てる。スペースはますます広さを感じさせます。パーティーにはもってこいじゃないか?

これ、一見良さそうだが、日本人にとってはどうでしょうか?欧米人にとって、ヨットが社交の場のようで、マリーナでは、オーナー同士の交流が盛んに行われる。ヨットオーナーという共通した価値観の中で、安心できるのかもしれません。町を歩くと、とんでもない奴らも居るわけで、マリーナでは少なくともいくらかは安心できます。

日本では、多分、マリーナに行くというのは、日常から逃れての癒しの方が強い。そこで、ご近所さんとの交流もありますが、そうそう深いおつきあいというわけでも無いような気がします。我々はヨットに何を求めるか?異空間?

宴会は好きだが、欧米人のパーティー好き程でも無い。日本の宴会はたいそうで、いろんなご馳走がある事が必要だと思ってしまう。欧米人は気楽。ビール1本でも良い。そんな気楽さが無い日本人にとって、大きすぎるキャビンはもてあまし気味ではないか?

日本人は昔から自然に対する感性が鋭い。音を楽しんだり、香りを楽しんだりしてきました。また、欧米人はたくさんの花を飾るのに対し、日本では一輪挿しなんてことも楽しむ。見える物と見えない空間も大事とされる。つまりは、感性が異なるという事でしょうね。現代の我々にしても、そのDNAを受け継いでいます。

日本人らしいヨット遊びとは何か?欧米文化を、器用にもいつのまにか昇華してしまう民族。何も、欧米流に従う必要もない。日本人のDNAは、欧米人よりも危険性に対する感じ方が大きいらしい。
なるほど、欧米人はかなり危険な事に挑戦する人が多い。勇気があるというより、DNAのせいか?

その代わり、日本人には繊細さがあります。繊細だからこそ、危険度の高い物に対して、より恐怖を感じてしまうのかもしれません。それはDNAですから仕方ありません。その代わり、その繊細な神経を利用して、繊細なセーリングに到達できる。欧米人が思うエキサイティングとは違う面白さを味わう感性を持つのかもしれません。

という事で、デイセーリングにおける繊細なセーリングを堪能するというのは、日本から発せられても良かったのではないか?そんな気がしないでもありません。まあ、デイセーラーを建造するというのは、日本の造船所にとっては、危険すぎる挑戦かもしれませんが。

アレリオン28というデイセーラーがアメリカで誕生して20年になります。アメリカでも20年前は売れなかった。これは彼らにとっても、おおいなる挑戦だったと思います。でも、市場は日本と違って大きいですから、日本でやる程のリスクは感じなかったとは思います。欧米では、このデイセーラー以外にも、いろんなコンセプトのヨットが建造されては消えていきます。日本市場も、もう少し大きくなって、日本発のコンセプトのヨットが生まれるようになると良いなと思います。

次へ        目次へ