第二話 風を流す

風が吹かなきゃヨットは死んじゃいますが、ひとたび風が吹きますと、ヨットはがぜん生き返る。風こそが命です。その風をセールで受けてヨットは走る。受けて、と言いましても、セールの表面を風がきれいに流れるようにするのが、揚力という力を生み出すコツ。きれいに流すです。

風がセール面に沿って、きれいに流れる時、揚力は大きくなりますし、セールカーブもきれいです。ヨットもきれいです。その揚力調整は、風が強すぎるなら、風を少し逃がし、弱いなら目いっぱい取り入れる。燃料調整のようなものです。

何と言っても経験が物を言う。そういう事を考えながら遊んできた人は、知識も豊富だし、操船も無駄ないし、感性も鋭敏です。自然とそうなっていきます。無駄が無いから体は楽だし、その動きもきれいです。カッコ良いです。それで、より多くを感じとっています。という事はより楽しんでいるという事になります。

知識は本からでも得る事ができます。でも、経験しないと得られないのは観察力です。実は、これがとっても難しい。観察によって、判断がなされ、調整という行為になります。ですから、観察が間違っていると全部間違う。でも、ヨットはそれでも走ってくれる寛大な乗り物です。ですから、楽しみながらできるスポーツです。

それともうひとつ大事な事は、変化を感じ取る鋭敏な感性という事になります。これらは、徐々に、同時に出来上がっていきます。風が目に見えたら、明確に風の流れが解りますが、残念ながら目に見えません。ですから、体中をアンテナにして、感じ取る、観察するという行為が求められます。
それには集中していなければなりません。とっても緊張するのがセーリングです。でも、この緊張感は心地よい緊張感だろうと思います。

セールは風に対する角度と、その形状の調整という事になります。そして、それを支えるのがヨット本体のスタビリティーという事になり、さらに、船体の硬さはフィーリングに違いをもたらす。それに重量と船型という事になりますが、調整できるのは、セールですから、セールは支えてくれる船体に応じて、そのバランスを風に対しても行う事になります。

セールは角度と、セールの深さ、ひねり具合で決まります。簡単なようで難しい。風が強ければセールは延びもする。すると深さが変わる。位置も変わる。まずは、大雑把な概要を頭に入れておくと良いと思います。その大雑把な概要は、経験を積む事で洗練されてきます。

その大雑把な知識でも、それを実行するには、何をすればできるか? 厳密な角度とか、厳密なセール形状はとりあえず脇に置くとして、大雑把な調整の仕方を覚えて、それを実際にやります。
セールは角度と形です。この二つを観察する事が必要になります。

さて、シートを引き込めば、セールはヨットの中央により、シートを出せば、外に出る。これだけでセーリングは可能です。それでセールを観察すると、シートを操作する度に、角度は変わるが、同時にセールの形も変わっている事に気づきます。それが自分の意図するところであれば良いのですが、そうで無ければ、角度は変えたいが、セールの形は変えたくないという事があります。逆に、セールの形は変えたいのに、角度は変えたくないという時もあります。

角度は風の角度に対するセールの角度で、セール形状は、風の強さに対する調整です。風の角度が変われば、セールの角度を変えたい。でも、風の強さは変わらないのであれば、セール形状は変えたくない。逆に、風の強さが変わって、セール形状を変えたい、しかし、角度は変わらないなら、セールの角度は変えたくない。そういう事になります。

従って、シート操作のみからステップアップするには、この角度と形状を調整する方法をどうするかという事になります。その為にブームバングがあり、トラベラーがあり、バックステーアジャスター、カニンガムがあります。これらは使わないでもセーリングはできます。でも、使えば、理解して使えば、そこにオーナーの進んだ意図が現れる。それが面白さの源泉かと思います。

最初は、厳密な調整は難しい。これこそが最も難しい問題です。でも、経験から、いろんな事が解り、徐々に進歩していきます。適切な角度と形状を試して、観察して、試して観察して、そこからいろんな変化を感じ取って、違いが解るようになる。そういう操作を意識してやってますと、自然に敏感になるものです。意識しないから感じられないと思います。

そこに風や波が変化しますから、もっと難しくなる。という事はもっと面白くなる。するともっと敏感になる。観察力も集中力もついてくる。ここに至るは、意識してやってる人しか解らない世界かもしれません。ですから、是非、意識してみてください。

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