第三十二話 こだわってみる

割り切るという事を書きましたが、それは見方を変えれば、何か自分の好きな事にこだわるという事でもあります。それをヨットでやります。世間が、クルージング艇だ、キャビンだ、何とか言いますが、そんな事はお構いなし。もう、遊びに世間なんて関係ありませんね。

スピードにこだわる。美しさにこだわる。シングルハンドにこだわる。品質にこだわる。旅にこだわる。フィーリングにこだわる。何か一点にこだわると、見えてくるものがある。それは、そのこだわりをより追求する為には、どんなヨットがふさわしいのか。そういう事が良くわかる。

すると、不思議ながら、こだわらない部分も良くわかる。つまり、こだわるというのは、真剣に考える事。本気で物を見るという事。そういう事になるのではないでしょうか?だから、いろんな事が良く解ってくる。一番大事な事は、解るという事ではないかと思います。解ってやる。解ってやらない。どっちも、解っています。

もはや、サイズなんてどうでも良い。大きい方が良いという時代はもう終わった。超リッチで、給料払って、クルーを雇うなんて事が無い限り、でかいヨットを自由自在に動かす事はできない。どう動かすか?ひとりでできなきゃ、誰かに頼る限り、思い通りにはなりません。

このクルー不足の時代、シングルでやれなきゃ、自由にとはいきません。でかくても、シングルを目指す。できなければ、サイズダウンした方が良い。ヨット知らない奴を乗せても、どおって事無い。そんな環境にしておかなければ、思い切って遊ぶ事はできない。だから、シングルを目指す。

最も良いクルーは、奥さんです。夫婦で旅をする欧米人は多い。基本は夫婦であります。それができなきゃ、やっぱりシングルを目指すのが良い。

でかいヨットが良いとか言いますが、決してそうでもありません。むしろ、品質を考慮にいれるなら、安いでかいヨットより、品質の良いサイズダウンしたヨットの方が良いのいではないか?サイズにこだわるより、品質にこだわった方が良いのではないかと思います。

例え、近所をセーリングするにしても、やっぱり違います。フィーリングが違う、それはどこから来るのか?品質だろうと思います。それは素材もありますが、やはり工法と構造に負うところは大きい。硬いハルはやっぱり違う。剛性の高いハルはやっぱり違う。いろんな特性を持つヨットがありますが、 その向かうところに、きちんと手間をかけて造られるヨットは、やっぱり一味も二味も違います。

大きいヨットは楽だという事も確かにあります。そのヨットの長さが、波がある時には助けてくれる。でも、時化た時、そのヨットの頑丈さや、船艇形状、安定性なんかも影響します。しっかり作られたヨットは、安心感があります。

以前は、量産艇ばかりでしたが、最近では、少しづつもっと品質が高いヨットも入ってきています。量産艇を基準にしますと、全てのヨットが高いと感じます。それは仕方ない事であります。しかし、こうやって、品質の良いのが入ってきますと、それが中古になって市場に来ますと、チャンスはあります。多少古くなっていても、基本の船体が良いので、ちゃんとメインテナンスしてやりさえすれば、この先ずっと乗る事ができますから、これは良い。ただ、まだまだ少ないのが現状ではありますが。

何が違うか? 例えば、バルクヘッドがちゃんとハルに積層されていたり、昔は当然でしたが、最近はそうでも無い。あるヨットは、内装家具のハルに接触する部分は全部積層されているのもあります。ハルの厚みの事もありますし、積層自体をベテラン職人がするか、そうでも無い人がするかによっても違う。

進水後は必ずメインテナンスが必要ですが、こういう面を考えられていないヨットもあります。逆に、そういう面を良く考えて造られているのもある。これなんかは、寿命を長く考えているからこそではないかと思えます。そういう事は建造時に手間がかかる事でもあるんですが。しかし、それを考慮するかしないかは後で大きな違いになります。つまり、長く使われる事を前提に建造されているヨットは、しっかり作っているし、当然メインテナンスも必要になると考えますから。

反面、量産艇はコストを下げて、より安く提供できるというメリットがあります。近場の沿岸なら、それでも、一般的な使い方として問題があるわけではありません。でも、外洋向きでは無いとは思います。あるヨットですが、外洋を走ってきたから外洋艇だという方がおられました。サイズは53フィートです。でも、よく見ますと、バルクヘッドは少し傾いていた。走れない事は無いのでしょうが、トラブルの可能性は高いと言えるかと思います。また、ある回航屋さん、ハワイまで持ってい行った。
でも、二度と御免だという話もあります。つまり、大きさだけが外洋艇向きかどうかでは無いという事になります。

一方、デンマークのノルディックフォーク、25フィートしかありませんが、世界を回った人も居るし、大西洋横断とか、オーストラリアからヨーロッパとか、たくさんの実績があります。でも、まあ、今日、このサイズで、行く人は居ないでしょうが。サイズは確かに物を言う。しかし、それだけでは無いという事だと思います。

従って、サイズも大事ですが、ヨットの質という面を優先して、仮にサイズダウンしても、それは有りではないか、と思うのですが。そこで、何にこだわるか?セーリング性能/セールフィーリング、外洋性、別荘的使い方における使い易さ、それぞれにいろいろあるかと思います。これも、自分が何を重要ポイントにしているかを解る事が重要でしょうし、また、見た目の美しさは、どれにおいても重要ですね。ヨットは美しい方が良いですから。

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