第五十七話 ヨット脳を持つ

脳があるから、いろんな事ができます。体があっても脳が無ければ、生きている事さえ解りません。これはちょうど、コンピューターのハードとソフトの関係と同じです。ソフトが無ければ、ただの箱という事になります。その箱にソフトを入れてやれば、そのソフト次第では、いろんな事ができます。

では、どんなソフトを持つか?それが重要であります。ヨットは考え方次第でどうにでもなる。どのように考え、どのようにするか次第という事になります。ヨットがあるからセーリングができるわけでは無く、ヨットに乗ろうと思うからセーリングができる事になります。

つまり、ヨットを楽しむ為には、ヨットに興味を持つ事から始まり、そのヨット脳を育てる必要があります。クルージングを楽しもうと思い、でも実際は年に数回しかクルージングに行かないとしたら、その残りの殆どの時間にヨットに接しないとしたら、それでヨット脳が育つかと言えば、疑問です。

その前に、年数回のクルージングにしても、そこに至るまでには、かなりヨット脳を育てておかなければ、クルージングを楽しむ事はできないのではないかと思います。それを育てて、クルージングを楽しむようになったとしても、年に数回だけなら、他は何もしないのなら、多分、そのヨット脳が減衰していくのではないかと思います。

ここで言うヨット脳とは知識の事では無く、脳がヨットに馴染むという意味です。ヨット脳が減衰していきますと、今度クルージングに行こうと思い、実際に行動するには、相当のエネルギーが必要になり、場合によっては行けないかもしれません。行動するにはエネルギーが必要ですから、馴染めば馴染む程に、気軽に行動できるのではないかと思います。

従って、クルージングを楽しむ、日本一周をいつか、外洋へいつか、と思う時、普段からヨットに馴染んで、そのヨットエネルギーを吸収しておく必要があると思います。いくら知識や技術があっても、このヨット脳が少なければ、行動する事が難しくなるのではないでしょうか?

そこで、普段はどうするか?それが重要になると考えます。

できるだけ多くヨットに関わる事、それがヨット脳を育てる最高の方法かと思います。ですから、デイセーリングをお勧めしています。デイセーリングこそが、日常的に、最も気軽にヨットに接する最高の方法かと思います。いつか日本一周なら、外洋なら、今、デイセーリングだと考えます。

そのデイセーリングを楽しむ為には、ピクニックも良いですが、どうせやるなら、そのデイセーリングも面白くしないと続きませんから、気軽である事、気軽なら、何度も行けます。その為のシングルハンドやショートハンド。さらに、どうせやるなら、面白さを追求した方が良いし、長続きもします。

日本人は勤勉だと言われます。引退したら、写真に凝ったり、絵画、陶芸、音楽、菜園、いろいろありますが、いずれも追求型ではないかと思います。知って、うまくなって、もっと知りたくなって、そんな具合ではないでしょうか?仮に、旅行を楽しむにしても、何度もあっちこっちに出かけますと、いろんな地の事を知っていきますし、何らかの知識が増えていく事に面白さを感じたりするのではないでしょうか。

そこで、今デイセーリングを楽しむ為に、セーリングを追求していく。ただ、セーリングしているだけでは無く、どのようにセーリングするかを重視します。セーリングの質を求めます。その方が面白いからです。ピクニックも良いのですが、そればかりでは面白さが膨らんでいかないのではないかと思います。それで、セーリングを求め、面白さを感じたら、そこをもっと深く追求していっても良いかと思います。外洋ばかりがヨットじゃない。クルージングばかりがヨットじゃないとも思います。もちろん、行っても良いのですが。

デイセーリングを通じて、ヨット脳を育て、もっとセーリングを求めても良いし、違う何かに変わっても良い。デイセーリングはヨット脳を育て、ヨットエネルギーを得る良い方法かと思います。そのエネルギーが溜まりますと、気軽にいろんな事ができるようになると思います。

もうずいぶん前になりましたが、53フィートのヨットのクルーだった事があります。オーナーと二人のダブルハンドで乗っていました。しょっちゅうです。それで、ある日、私の都合がつかず、その時、オーナーはシングルでセーリングに出られました。もちろん、オートパイロットとかパワーアシストウィンチがあります。でも、当時、ダブルハンドでも、良くやるねとか言われたぐらいで、もちろん、ジェネカーも上げていましたが、ましてやシングルは考えられなかった。こういう事は、当時、常識では無かった事、でも、多分、ヨットエネルギーがオーナーに取り込まれていたと思います。ですから、ひょいと出す気になれた。ちゃんと楽しんで帰ってこられました。それ以来、時々シングルで出られた。無理をしたわけでは無く、ヨットエネルギーがあったから、出すのにエネルギーを要しなかった。そういう事かと思います。

ですから、将来日本一周を、否、外洋をと考えておられる方でも、デイセーリングに限らず、いろんな、今できる遊びを遊んでヨットエネルギーを吸収して、ヨット脳を作っておくのが良いのではないかと思います。知識も技術もセンスも大事ではありますが、これらは全てヨット脳を育てるところから来るのではないかと思います。

ところで、自転車が最近流行ってるような気がします。本屋に行きますと、自転車関連の本がたくさん目につきます。誰もが自転車ぐらいは乗れます。何年も乗っていなくても、すぐに乗れます。でも、近所ぐらいは気軽に行けても、遠くには行けません。普段から自転車に乗ってる人、それも自転車を楽しんでいる人は、遠くにでも行けるのではないでしょうか?乗れるからどこへでも行けるわけでは無いと思います。

つまり、普段からセーリングを楽しんでいる事が、何をするにも重要で、その事がヨット脳を造り、ヨットエネルギーを吸収する事になるのではないかと思う次第です。そのエネルギーがあれば、クルージングもレースもピクニックも別荘的な使い方も、何でも気軽にできるようになるのではないでしょうか?もちろん、セーリングを追求するにもエネルギーが必要ですから、その為にも、今、セーリングを楽しむ事が重要かと思います。セーリングが嫌いなヨット乗りはいないでしょうし、デイセーリングは誰にでもお勧めであります。

次へ        目次へ