第八十三話 セール調整

いろんな事をして遊びますが、時に、集中してセーリングを楽しむという事も、長いヨットライフを維持していくにはあった方が良いのではないかと思います。テルテールを睨んで、舵に集中して、遊びに何もそこまでと思われるかもしれません。しかし、時に、そういうセーリングを持った方が、面白さを感じられるのではないでしょうか? 他とのメリハリがつきます。

さて、前話で角度とセール形状について書きましたが、では、どうやってそれを実行するかになります。風速に対して、形状を合わせる。これはパワーをつけたり抜いたりする事になります。セールのパワーはドラフトの深さですから、そのドラフト調整を行います。

ジブなら、ジブのシートをリードしているブロック。前後に移動させる事ができます。理屈で考えても解りますが、ジブのブロックを前にやりますと、シートのセールを引く角度が、下方向により強く引かれます。つまり、セールのリーチ側にテンションがかかります。という事はフット側のテンションが緩む。想像してみますと、当然ながら、セールは丸くドラフトが深くなります。という事は微風時にはブロックを少し前にやって、ドラフトを深くする。

今度はブロックを後にやりますと、その反対で、フットにテンションがかかって、リーチが緩む。ドラフトは浅くなって、後に移動させればさせる程に、リーチのテンションや緩みリーチが開いていく。
風が強い時は、浅く、もっと強くなればリーチをもっと開いて、風を逃がす。極端に前後移動させるのでは無く、徐々に、どのくらい変化するかを経験で積み上げていく。

メインセールは、ドラフトの変化をバックステーアジャスターで行います。バックステーアジャスターを引かない時、ドラフトは最も深くなります。そのようにセールがカットされているからです。それで、風が強くなるに従って、バックステーを引いて、ドラフトを浅くしていきます。バックステーを引きますと、マストを曲げていくことですから、ラフ側から浅くなっていきますので、ドラフトは後退します。それで、ドラフトを前後の中央からやや前側程度に、ハリヤードを引くかカニンガムを引いてラフ側にテンションをかけて移動させる。ハリヤードはセールを上げる機能の他、こういうドラフトの位置調整にも使われます。カニンガムと違うのは、ハリヤードを引くと、ラフテンションが上がるだけでは無く、リーチも引っ張ってしまいますから、リーチがその分閉じる事になります。その分、開いてやる必要が出てきます。

セールのドラフトが決まったら、トラベラーで左右の角度を決めますが、その前にリーチの開き具合を決めます。メインシートを出せばリーチは開く。適正と思われるリーチの開きを決めて、トラベラーで角度を決めます。風速が変わらない限り、メインシートの調整はしないで、角度だけの調整になりますから、トラベラーで行うか、セールを外に押し出している時は、ブームバングでブームの上下位置を調整して行います。

角度の場合、ジブはジブトラックが固定して前後に走っているだけですから、左右には移動できない。するとすれば、デッキいっぱいの外側にブロックをつけてそこからリードするぐらいです。そうなるとブームがあるメインと違って、外にあまり押し出せない事になります。だから、ジブは上り用という事になります。まあ、風の強さによっては、ある程度は風が押してはくれますが。

その点、メインはブームのお蔭で、押し出す事ができます。シートを緩めて行けば、ブームは外に出る。でも、同時に、ブームを下側に引く力が無くなるので、ブームは上に上がり、リーチが緩んでしまいます。それで、ブームバングを締めて、ブームを下げて調整します。

これらを頭の中で描いてみてください。想像してみてください。理屈は解ると思います。そうしたら実践でこれらをやってみます。理屈は解っても、どの程度の調整が良いのか?これが最大の謎です。ヨットによっても違います。その謎解きゲームが面白さだと思います。その面白さを得る為に、どういう走りをしているのか、どうしたいのかを意識して明確にしておく必要があります。調整幅が適格では無いにしても、意図がきちんとしていれば、経験を積み重ねていけば、より適正に近づける事になります。上手くなります。

風向と風速の変化、それに波の変化に臨機応変に対応していける度合いが高くなればなる程、今度は楽にそれができるようになります。もちろん、完璧は無いにしろ、常にベターです。ベターですから、永遠にこのゲームを楽しむ事ができます。ヨットの全体像がより深く理解されます。

これらに慣れたら、ジブは上り用ですから、できれば下り用のジェネカーまで使いこなせたら、我々アマチュアのヨット遊びとしては完璧なのではないでしょうか。風向と風速は常に変化し、おまけに波の変化が加わります。全部がからんで、極めて複雑で難しくなります。ですから、風向と風速を別個に考えて、できるだけシンプル化し頭の中を整理しておく。それに波が加わりますから、臨機応変の対応が必要になります。完璧にしようと思ったら、とてもでは無いが、複雑でできません。でも、ベターを思い、意図を明確にして、徐々に近づく。そういうセーリングも面白いと思います。

何もそうしなければならない事は無く、いろんな遊び方のひとつとして、できれば中心として、ヨットが最もヨットらしい機能を発揮する楽しみ方を持っておく事は充実感を得る為にも良い方法ではないかと思う次第です。稼働率がどうこうよりも、また乗りたいという気持ちが湧いてくるかどうか?
遊びだからと言っても、楽じゃない。でも、やれば、単なるそこらへの楽しさ以上のエキサイティングな面白さを味わう事ができると思います。ただ、動かすだけでは飽きて来るかもしれません。

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