第九十四話 新しい世界を手に入れる
ヨットスクールにはたくさんの中高年齢の方々がヨットの操船を習いにこられます。定年になった後、長い人生をどうやって過ごそうか? 子供は独立し、夫婦だけになって、毎日、家でごろごろしては、かみさんにも疎まれる。やっと自由な時間を手にれた。さあ、何をしようか? 仕事から開放されてと言えば聞こえは良いが、新しいことをするには勇気が要る。若い時ならいざしらず、年とってから何か新しいことを始める方々は、勇気が要るし、チャンレンジャーでもありますね。でも、その勇気が、新しい世界を手に入れる唯一の方法でもあります。 今ヨットを習っている方々は団塊の世代。高度経済成長で働きまくった人達。彼らは、元々チャンレジャーでもあった。日本経済を引っ張ってきたきた人達であります。だから、そういう要素を持っていた人達なのかもしれません。 今日お会いした方も、現役の頃は中東をはじめ、海外を仕事で飛び回ってきたそうです。言葉や文化の壁もあり、大変だったと思いますね。聞くところによりますと、最近では海外転勤希望者は少ないようです。当時の時代は、そういうチャレンジャー無しでは、成り立たなかったということもあるでしょうね。 それで、今度は海という世界を手に入れる。人間は陸上暮らしですから、海は別世界。飛行機で空でも飛べる時代ですが、載せてもらう空とは違い、自分で操船しての海ですから、その世界観は違います。その海は、必ずしも良いことばかりではありませんが、だからこそ、人間の工夫、知恵が必要で、そこが魅力でもあります。 今日のテレビで、ちょっと面白い話を聞きました。日本人は昔から、道をつくるのが好きで、華道、茶道など、お茶を飲めば良い、花をいければ良いというストレートな話では無く、プロセスを楽しむ民族ですというお話。ボタンひとつで何かを楽しむ時代へと変わってきましたが、でも、自分で何かをして、だからこそ面白いと感じる。 ある旅館の紹介がありました。そこは客が自分で薪で風呂を沸かして入るのがルールだそうです。したことも無い薪割りから始まって、それを燃やして、風呂をわかす。2時間ぐらいかかっていました。不慣れなこと、はじめての事ですから。でも、そのお客、お金払って、自分で風呂沸かすなんて変な話ですが、でも、気分は最高だとか。 オートマチックの時代にどんどんなって行きますが、一方では、こういうマニュアルも注目されつつあるのかもしれません。それは、毎日の暮らしでは御免こうむりたいが、でも、遊びとしてはマニュアルの方が面白いかもしれない。楽しさ、面白さというのは、こういうマニュアルの世界にあるのかもしれません。それも、目的を一発で達するより、そこへのプロセスを楽しむ。そのプロセスこそが、面白さを左右するのかもしれません。 我々はオートマチックの世界に慣れてきました。それが良いと思わされてきた。果たしてそうなのか?確かに、我々の世界は便利になりました。しかし、そのまま、何か新しい事を探して、実行しても、それはオートマチックの世界で、簡単に可能となるのかもしれません。でも、それでは新しい世界は手に入らないのかもしれません。自分の頭を使って、手と体を使い、実行するからこそ、プロセスを感じ、苦労もあるかもしれませんが、面白さも感じるのではないでしょうか? それができるのは遊びの世界だからではないでしょうか?何故なら、何かを達成しなければならない事は無いからです。 遊びの世界で何かを達成しなくても、今とそのプロセスをいかに楽しめるようにするかが重要なのではないかと思います。何としてでも、達成するぞ、というのは、何だか仕事のようで? それより、今日一日の工夫、頭と体と、感性を刺激するセーリングなど、マニュアルの世界です。 いかにGPSやオートパイロットがあろうと、セーリングはマニュアルの世界、感性が合うなら、これほど面白いものは無いのではないでしょうか? ただ、海に出たなら、陸上の完璧さを期待してはいけないような気がします。その不完全さも、そこに気が馴染むのも、遊びの世界です。 |