第十五話 年間建造艇数
私の知る限り、プロダクション建造では年間に量産艇では数千の建造を行い、小規模では百艇以下、その中間にあるような、年間数百という造船所を知りません。量産艇は数をこなさなければなりませんし、その分、価格も安い。一方、小規模造船所では、量産艇と価格競争はできないので、その分、一艇一艇に手がかけられ、造りで勝負する。 当社では、量産艇をたくさん売る事はできないので、小規模造船所に限定して、取り扱っています。世界にたくさんある造船所の中から、そのコンセプトと造りを研究して、これぞと思う造船所にコンタクトを取ります。 量産艇では、沿岸クルージング用がほとんどですが、小規模造船所では、外洋艇があり、レーサークルーザーがあり、パフォーマンスクルーザーがあり、もちろん、デイセーラーもある。コンセプトが多種にわたり、むしろ沿岸クルージング用というのは無いと言えます。 年間建造艇数を見れば、ある程度どういうヨットであるのかが想像できます。その上で、どんなコンセプトを持つか、どういう艤装をして、どういう仕様、オプションを揃えているかで、そのヨットのおおよそをつかむ事ができます。だいたい間違う事は無いと思います。 ただ、こういうレイアウトが良いとか、個人的好みの部類は別です。あくまで、性能や品質においてです。 昔ですが、ある造船所が、年間に100艇を超えて行った頃、買収されて、量産艇の造船所に変貌していきました。恐らく、年間100艇を超えて、200艇ぐらいになる時、中途半端になるのかもしれません。だから、小規模に抑えるか、量産に向かうかの選択を迫られるのかもしれません。 量産艇が、完全にラインに載せて建造していく手法を取りますが、ヨットという物は、車のような作り方はできません。量産といえど、まだまだ手がかかる。その手間をできる限り排除する努力をしています。もう随分前ですが、40フィートのヨットを2週間で完成させるという雑誌記事を読んだ事があります。今はどうかは知りませんが。数が勝負です。それで、より安価を目指す。 ただ、市場がその数を吸収してくれなければなりませんので、市場にはとっても敏感なのだろうと思います。最も影響を受けやすい。 一方、小規模造船所では、小型艇の建造が少なくなります。より大型艇に移行しています。小さなヨットを作って売るより、大型艇の方が効率が良いからでしょう。ただ、デイセーラーはコンセプトが違いますので、小型艇も作る。 最近の動きですが、スーパーヨット市場に陰りが見えて、200フィートとか150フィートとか、そういうヨットが減少し、需要が100フィートぐらいや、それ以下にサイズダウンした市場が増えてきているらしい。そこで、小規模造船所は、それまで50フィート程度だったのが、70や80、と徐々にサイズアップしたヨットを作り出しているし、100フィート超えにまで及んでいるようです。もともと、たくさん建造するわけでは無いので、年間に1艇でも売れれば良いと考えているのかもしれません。 でも、我々が通常遊ぶ艇としては、30〜40フィート前後ぐらいが丁度良い。クルーの問題、置き場の係留料、維持費、その他を考えても、これぐらいかな。個人的に近場で遊ぶなら、30フィート以下でも十分ではないかと思います。大きなキャンピングカーに対する、バイク的な感じでしょうか?これはこれで面白いかと思います。 小さいから量産できるという問題でもありません。小さくても、それなりの品質にするには、やはり、手間がかかる。何しろ、構造からして手間がかかるようになっています。大きくても、小さくても、構造や工法は同じですから。 という事で、そのヨットを知る重要な要素のひとつとして、年間建造艇数を参考にしています。画期的な工法が発明されない限り、例えば、FRPに代わる素材とか、この見方は当たっているかと思います。造船所が作るのは船体です。他の艤装は全部、他のメーカーが作ったものです。その船体をどういう具合にするか?構造によって、工法が決まり、どれだけ手間がかかるかが決まります。 しっかりした構造にするには、手間がかかる。すると数多くは作れない。作れるだけの敷地面積とスタッフを雇うなら、量産に移行した方が効率的であります。 |