第三十二話 フリーボード

最近のヨットはフリーボードが高い。つまりデッキの位置が高い。この高さは、キャビンの広さを確保するのに寄与していますが、ことセーリングに関して思いますに、海面が近い、つまりフリーボードが低いヨットは、スピード感があって面白い。同じ5ノットで走ったとしても、低いフリーボードのヨットの方が、何割かはスピード感は高まると思います。

低いフリーボードでは、キャビンの狭さをもたらします。しかし、セーリングを遊ぶという意味では、低い方が面白い。前にも書きましたが、面白いかどうかが重要な要素、5ノットが6ノットになったところで、目的地に早く着くという目的地志向であるなら、重要な事ですが、クルージングをエンジンで行くならあまり関係は無い。セーリングなら、スピード感の方が重要なのです。それが面白いか面白く無いかになります。

フリーボードが高いと、桟橋からの乗り降りが大変です。おまけにライフラインもある。つま先がライフラインに引っかかったり、デッキから飛び降りたり。あまり中高年には優しく無い。桟橋につけた時は、若いクルーにロープを取らせた方が無難かもしれません。とは言いながら、最近は若いクルーも居ない。彼らは、普通のクルージングよりも、レースの方がエキサイティングなので、そっちに行ってしまう。だからクルージングで若いクルーを維持するのは、難しい事なのです。それでなくとも、クルー不足の時代ですから。

フリーボードが高くなると、重心が高くなる。走るヨットにとって、重心が高いというのは、あまり良い事では無いでしょう。車でもしかり、走るものは何でもそうですが、重心は低い方が良い。

でも、一方では、キャビンは広くなります。クルージング艇という旅を目的とした場合、特に沿岸の旅であるなら、広いキャビンは良いかもしれません。キャビンは寛ぎの場所であり、寝泊りする場所ですから、狭っくるしいキャビンでは、そう何泊もするのは気分的にしんどくなりますから。

という事で、クルージングには広いキャビン、セーリングには、低い重心、低いフリーボード。パフォーマンスクルーザーはその中間かな?そういう意味では、日常にセーリングを楽しみ、時にクルージングという志向であるなら、クルージング艇よりもパフォーマンスクルーザーの方が使い勝手はあると思うのですが。

クルージング艇は、船旅を満喫する事を目的にしますから、それが沿岸なら、そんなにヨットがどうこうというより、エンジンでの機走能力とキャビンの広さと設備、それらの使い勝手が主となります。
フリーボードは高くてもたいした問題では無い。

ところがセーリングになりますと、重心が重要ですし、船体の硬さも重要だし、その重量も重要。もちろん、フリーボードは低い方が面白い。これらの求める内容が違うので、違うヨットになるのは当然の事であります。

多くの方々がクルージング志向ですが、本当にそうなのか? 日常にはセーリングを楽しむという習慣を持つのは、トータル的なマリンライフを満喫するうえで、かなり効果的ではないかと思います。ですから、相棒が居るなら、パフォーマンスクルーザーでも良いし、クルージングもそう遠くへは行く事も無いというなら、デイセーラーが良いと思っています。

純クルージング艇なら、旅を満喫し、それ以外は別荘として使う。それが苦手な日本人にとって、純クルージング艇はちょっともてあますかもしれません?引退して、暇がいっぱいで、しょっちゅう旅をするなら良いですが。まあ、余計なお世話ですが。

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