第十話 離着岸

ジョイスティクによる、簡単な離着岸はヨットが大きくなるにおいて、当然の帰結ですね。まだ、乗った事が無いですが、多分、便利、簡単極まりない事だと思います。良い世の中ですね。誰かが、ちゃんと考えてくれてます。今の処は、45フィート以上ぐらいのサイズに設置されていますが、そのうち価格もこなれてきて、もっと小さなサイズにも採用されるでしょう。

これで、セーリング人口が増えていけば良いし、もっとたくさんヨットに乗る機会が増えれば良いなと思います。これが、クルージング艇の最近の画期的なニュースだと思います。

一方、セーリングやレースという面においては、まだまだこういう物を採用するようにはなりません。多分、今後もならないでしょう。何故なら重くなりますし。セーリングをより高める為に、造船所は苦労を重ねて、ハイテク技術を使って、排水量を軽くする努力をしています。ですから、こういう機械は便利なんですが、重くなるし、帆走性能が落ちていきます。だから、余程軽くならない限りは採用する事は無いんじゃないかなと思います。

という事は、クルージング艇とセーリングヨットの格差がますます広がって行く事になりますね。すると、クルージング艇で遊んできた人が、中には、セーリングやレースに向かう方もおられるわけですが、クルージング時代にジョイスティックによる離着岸に慣れていますと、これ無しだとハードルが高くなるかもしれません。いくら、舵効きが良いとか言っても、やはり風はみないといけませんし、要領もありますし。これはどうかな? 逆は簡単になる方ですから問題は無いでしょうが。

しかし、まあ、これも仕方ありません。クルージング艇はクルージング艇としての進む方向があって、どんどん進化していきますから、セーリングヨットが目指す方向とは違うし、セーリングヨットも向かう方向があって、それぞれの方向に進化していきますから、両者がどんどん離れていくのは仕方ない事です。

確かに、ジョイスティックの離着岸は便利です。しかし、これが注目されればされる程に、通常の方法による操作も際立つ。オートマチックは便利ですが、マニュアルは技術を要する。感性も要する。遊びですから、その遊びに何を求めるかですね。

車ですと、今では、オートマチック専用の免許があるそうです。そうなると、マニュアルシフト車には乗れないし、操作もできない。車は良いんです。もう日常の足ですし、遊びでもありません。マニュアルシフトの車に乗れるからと言って、そんな事は自慢にもならない。

でも、ヨットは遊びですから、遊びの種類によっては、マニュアルに乗れるという事は意味が大きいと思います。何故なら、技術を要し、感性も要するからです。そういう遊びだからです。仕事ならジョイスティックが良い。でも、遊びなら、そうとも限らない、と思います。便利は良い事ですが、遊びに関しては、便利がそのまま良い事とは限らないと思います。遊びに何を求めるかでしょうね。

でも、ヨット人口を増やすのは便利さかな? 否、やはりヨットとしての面白さではないでしょうか? 便利になっても、面白くないなら、つまらない。ですから、ジョイスティックOK、でも、面白さをどこに求めるか? これが大事かな。ヨットは純粋な遊びですから、他の事のように、便利さだけに囚われていますと、面白さを見失ってしまうかもしれません。何度も言いますが、遊びは便利さでは無く、面白さが最重要課題だと思います。ですから、ジョイスティックを採用したクルージング艇は、これまで以上にたくさんの面白さを見出す必要がありますね。もっとクルージングに行った方が良いし、もっとキャビンに泊まった方が良い。そこに面白さを見つけるようにした方が良いのではないでしょうか?要は、便利さだけ、快適さだけ、そういう楽な道だけだと、飽きるかもしれないという事です。だから、面白さが必要なんだろうと思います。

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