第十四話 プライオリティー

車のデザインが流線型になると、それが一般的な流行りになりますと、角張ったデザインの車が古く見えます。流行遅れに見えます。感じ方も、何だか良い感じでも無い。これは一種のマインドコントロールなのかもしれません。

クルージング艇のキャビンがみんな大きくなると、それが良いと思ってしまいます。誰も、本当にそれが良いのかどうかとは考えません。ところが、時が経ちますと、そこに違う考えを持つ人が出てきて、違うヨットを造る。それを見て、一部の方が支持し、それが広がる事もあります。

物事が浸透すると、選択肢が増えます。そこで、選択するにあたっては、誰もが考えるようになります。ですから、選択肢が増えるというのは良い事だと思います。キャビンが大きい方が良いのか、小さい方が良いのか? 速い方が良いのか、遅い方が良いのか? 絶対的な正解はありませんが、自分に合う、自分だけの正解はあります。それを知っていれば、もうヨット選びに迷いは無くなります。

ですが、実際は自分の正解さえも解りません。ですから迷いますし、割り切る事もできません。その主な原因は、いろんな状況に対応しようと思うからではないでしょうか? ひとりで乗る事もあるが、もし大勢が乗りたいと言ってきた時はどうしよう。すると、それにも対応できるようにしたくなります。暇が無いので、遠くへは行けないと思っても、もし、暇ができたら、いつか遠くへ行けるかもしれないと思います。すると、それにも対応しようとします。
前に、コクピットはメインサロンですと書きました。すると、雨降ったらどうするんだ、という事になりますから、それに対応しようと考えます。

結局、何にでも対応しようとすると、本当に味わいたい事が味わえなくなる可能性が高くなります。何にでも対応して、より良い状況を造ろうとする事が、返って、逆の効果をもたらす事もあります。
ですから、最優先すべきは何か? 極端な言い方をすれば、それ以外は諦めてしまえば良い。捨ててしまえば良い。

実際は諦めるほどでは無いのですが、コクピットをメインサロンと考えて、そこで食事したり、宴会して楽しんだりする事ができます。それで、雨が降る時は? そんな時はしなければ良い。諦めれば良い。それだけです。それでも、全てを諦めたわけでは無く、また今度天気が良い時はできるわけです。そういう風に考えられたら、どんなにか気楽でしょうか? そして、自分の最優先は諦める必要が無いわけです。

何にでも、いかなる状況でも対応できるようにしようというのは、良いようで、実際は全てを台無しにしかねません。ですから、最優先課題を明確にして、その他は諦めると決めたら。とっても気軽に楽しむ事ができる。割り切るなんて簡単になります。ところが、実際そうやっても、諦めたはずの事も、多少の工夫とかすればできる事はたくさんあります。一旦は諦めたわけですから、それができるのは、結構面白くなります。ですから、プライオリティー以外はどんどん諦めた方が良い。

ある方、セーリングのスピードに目覚め、何にも要らないから、とにかく速く走りたいと思われた。このオーナーのプライオリティーはスピードです。非常に明確であります。それで、内装なんかどうでも構わない。速いヨットがほしい。そういう事です。でも、考えてもみてください。何にも無いと言っても、コクピットはあります。キャビンもあります。これが無くなる事はありません。ですから、諦めたと言っても、できる事は結構あるんですね。もちろん、豪華で広い、快適なキャビンでは無いかもしれませんが、でも、自分が望む最高のスピードを得た人にとって、キャビンでのちょっとした不便さは何でも無いし、それどころか、そうやってでも使える事に、結構面白さを感じたりします。

また、ある方は、でっかいサイズのヨットなんですが、キャビンはバウにちょっとあるだけです。ところが、このヨットが最高に美しくて、高性能なのであります。諦めると言っても、全部では無いわけで、最高の一点を最優先とするという事になりますから、最高を味わう事ができるという事になります。

ですから、最高に楽しむには、最高の何かを最優先にして、他は思い切って、捨てる事ではないかと思います。捨てると言っても、実際は全部本当に捨てる事にはなりませんが、そういう気持ちを持つという事です。それが出来れば、どうなるか?最高のヨットライフが味わえる。それが最高のヨットライフを自分で創るという事になるのではないかと思います。でも、やっぱり問題は捨てられるかどうかになりますが。

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