第十八話 職人技

速いヨットで、硬いハルで、重心が低くて、全体がバランス良く、云々。つまりは、性能の良いヨットでは、速いんだけれども、速さだけじゃ無いなと思わせる事があります。それは、何とも言えない滑らかさとでも言いましょうか、実に気分が良いものです。

こんなのは、数値にも出せない、仕様書にも書けない、計算もできない、絶妙のバランスかもしれません。でも、そういう時が確かにあります。そういう時は、速さなんか気にしていないし、ただ真っ直ぐ走っているだけです。そういう気分を味わえたら、最高ですね。

どうやったら、そんな気分を味わえるのか? 分かりませんね。 重量や硬さや、いろんな事の総合的なバランスの上に、風が作用しているのかもしれません。これがどうしたらと解るもんなら、事は簡単ではありますが、多分、職人さんの技かもしれません。一度、聞いてみたいもんです。

昔、本で読んだ事ですが、お寺を建てる宮大工さんが書いた本です。昔は、同じ土地にある山から、その山の北側に生えた木は、寺の北側に使い、南は南と東西南北を合わせるそうです。そのうえで、職人の技を発揮する。建てて、100年ぐらい経ったら、丁度良くなるとか。それから何百年も持つわけですからすごいもんです。

世界には職人さんがたくさん居ます。でも、なかなか引き継いでいくのは難しい。経済的な面も多いです。資本主義社会ですから、仕方ない反面、惜しい気もします。

これも20年ぐらい前ですが、昔のヨットの船大工さん。チークで工作を頼んだ事がありますが、見ていますと、結構いい加減に計測している感じで、図面も書かない。大丈夫かなと見ていましたが、どうして、出来上がったら、どこもピッタリ。もうとっくに引退されました。

計算して、できる職人さんもいっぱいおられるでしょうが、そのもう少し先と言いますか、見えない部分と言いますか、そういう事まで解る方は少なくなっているのかもしれません。コンピューターが発達してきたせいかな? 

トップレベルのヨットレースでも、良いデザイナーはたくさん居ます。しかし、ひらめきがほしいんだという話も聞いた事があります。また、車を造る金型でも、最後はコンピューターでは無く、職人さん次第だとか。人間の力はすごいもんです。コンピューターや最新技術を使う、その上に、職人の技がある。

そして、それを使うのも人間ですから、そういう何とも言えないようなセーリングに出会うと、実に良い気分になりますね。快走中の快走であります。

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