第七十二話 フィーリングの問題

どんなヨットでもセーリングはできます。速いとか遅いとかいろいろあるかもしれませんが、セーリングはできます。セーリングが二の次であるなら、それでも十分かもしれません。広いキャビンと充実した装備で、沿岸のヨット遊びには十分かもしれません。

しかし、もし、外洋のロングクルージングに行こうと思うなら別の話になります。悪天候に出会うかもしれません。例えそういう事が無かったとしても、そういう前提で考えておいた方が良いという事いなります。

或は、セーリングをもっと面白くと思うなら、別の話になります。動けば良いから、どんなフィーリングを得るセーリングができるが重要になります。

という事で、ヨットは沿岸用クルージングから、外洋に行くか、セーリング重視かによって、離れていく事になります。外洋艇は時化を想定して、それを乗り切れる様に、しかも、オーナーが長い旅で、少しでも疲れないようにする為、重量を決め、船型をデザインし、キールやラダー、キャビンの配置、燃料や容量要領、重量配分、マスト、リグ等を決めていきます。

セーリング重視の場合も同様で、その目指す処のセーリングを想定して、様々な要素を決めていきます。そうしますと、動くヨットが、走るヨットになり、その時のフィーリングが違う事になります。同じスピードで走ったとしても、フィーリングが違う。外洋艇でもそうです。フィーリングが違う。そのフィーリングの違いこそが、安心感であったり、面白さであったり、優雅さであったり、疲れなかったり、要は物理的な数値では無い、目に見えない要素であります。それが善し悪しを左右すると思います。たかがフィーリングではありません。フィーリングこそが重要であります。

外洋艇には頼もしさを感じ、セーリング重視ヨットには、スポーティーさを感じます。その感じこそが、面白さ、安心感の源泉ではないかと思います。実際に外洋艇で、時化に合う時、それが実感されます。時化では無いにしても、がっちりした感じが解ります。セーリング重視のヨットでは、セーリングの感じが違います。滑らかさを感じます。これも船体はかちっとした感じもあります。

そういう事によって味わう様々な感じは、それこそが面白さを感じさせてくれます。ママチャリ自転車で走るのと、マウンテンバイクやロードレーサーで走るのとでは、フィーリングが違います。普通のセダンと、キャンピングカーと、スポーツカーではフィーリングが違います。移動だけならどれでも可能、しかし、どのフィーリングを得たいのかという事になります。

そのフィーリングを得た時、時化でも安心感があったり、セーリングでグッドフィーリングだったり、それを味わいますと、それこそが、遊びならではの面白さではないかと思います。我々は、良いヨットを求めます。その良いヨットの定義は、それぞれによって違うと思います。しかし、究極的には、我々が求める事は、フィーリングではないでしょうか?

安心感というフィーリング、スリルというフィーリング、楽しさ、面白さ、軽やかさ、新鮮さ、滑らかさ、スピード感、加速感、美しいヨットから得られるフィーリング、サイズから得られるフィーリング、いろいろあって、そのフィーリングこそが、我々が生きている証拠でもあります。

どんなフィーリングを与えるかが、そのヨットの性能という事になります。だから、フィーリングを得る為に、どんなヨットのどんな性能が良いのかという事になります。だから、性能は帆走性能だけでは無く、そのヨットの重量、船型、硬さ、頑丈さ、セールエリア、操作性、サイズ、レスポンスの良さ、つまりは、ヨット全部の事を指す事になります。それを端的に表すのが、コンセプトという事になりますが、その同じコンセプトの中でも、性能の違いというのがあります。だから、それを見極める為には、よりヨットの事を知る必要があります。自分が求めるフィーリングはどんなものかも知る必要があります。もちろん、完璧はありえませんが、より知る事で補える事もある。

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